投稿日: Jun 08, 2015 1:18:30 AM
日本人を安心させる効用があるのか、モノ作りの匠を題材にした番組や記事というのがバブル崩壊以降に増えてきたと思うが、素人向けの娯楽番組としてなら、こだわりのグルメ番組と同じ様なものと考えていいのだが、実際にモノ作りをしているプロとして考えると、大抵は物足りない番組になっている。職人技でショウ化できるところだけにスポットライトをあてているからだ。実際には腕による技の見せ場以前に、見識とか知見とか頭脳が働いている部分が重要なのだが、そういうところは番組にはなり難いのか、あるいは見る方にとっては退屈なのかもしれない。
私もこの手の番組が決して嫌いではないので、ときどき見てしまうのだが、私が工場で働いていた40年前とは比較にならないほど、計測や検査の精度が上がっていて、職人技の成果も計数的に表現して管理できるようになっていることに感心することがある。
日本の中で伝えられている職人技が容易に外部には伝わらなかった要素のひとつが、作業の個々のやり方がなかなか計数化できないもので、人の五感六感で見極めて作業していた点があったと思う。しかしその五感六感の相当部分は計数化されて機械化ができ、大量生産ラインとして安価に高性能な部品などを産み出すようになった。
つまり日本のモノ作りの経済的な点での優れた面は、職人が最新の科学技術を駆使して、従来は人の五感六感の助けを借りていた部分を生産技術に結びつけたところにあるのだろう。
今はすでに大量生産技術になっているところは、モノ作りの原点として計測とか検査が進んでいるところのはずだ。つまり計測方法とか検査方法に関するノウハウが、職人個人の見識とか知見を越えて組織で管理されるようになっていると思う。それによってある職人個人を他社が引き抜いたところで、同じ生産方法が真似されないようになっていると思われる。
ベンチャー企業でも、一般のニュースネタになりやすい発明とか実用新案的なものよりも、BtoB向けで計測・検査・解析の会社の方が順調に育っているように見える。こういう世界は工学部にでも行っている人は理解できるかもしれないが、素人向けのTV番組にできるプロデューサーは居ないのではないかと思う。
しかし日本のモノ作りの力を保つためには、こういった分野で活躍する人を増やしていかなければならないだろう。
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