投稿日: Sep 29, 2014 1:37:59 AM
テロリストと報道されていても、支配地域が日本の本州の半分くらいあって、ベルギー強の兵力をもっている集団である「イスラム国」(IS)は、確かにすでに国のレベルになりつつある。しかしこのままシリアとイラクにまたがった新たな国が誕生して、あの地域が安定するとはとても考えにくい。欧米は今のうちにISを叩き潰せと画策しているのだろうが、おそらくそのような単純なものではなくて、15年かかったベトナム戦争のようなことになるのではないかと思う。とはいってもISが勝者になるとは限らず、アラブの歴史的・根源的な問題をほじくり返して、地政学的に新たな段階に達するのではないか?
ISはすでにある程度の統治能力を備えていて、産油施設をおさえてシリアの政府側の何倍もの生産をして、原油の密売によって相当額の収入を得ているといわれている。これは単なるテロリストではない。石油採掘は石油メジャーがおさえていたものが各国の国営企業に移ったが、その販売ルートはいろいろな利権が絡んでいたはずで、そこをISは密売という「産直」ビジネスにしてしまったととれるのではないか。つまり国営企業の時代よりもビジネスとしては自立性が高まっているように思える。このことは他の中東産油国にも影響を与えるかもしれない。つまり民力による産直時代という石油の市場開放であるが、そういう方向に流れると困るのが今何らかの利権の上にいる人たちである。
その代表がサウジアラビアで、サウジ家は王政を守るために欧米と適当に妥協しながら中東のかじ取りをしてきて、今まではサウジはISの応援する側であったのが、ISのこれからの出方次第ではうまくいかなくなる可能性もあると思う。ISはヴィジョンのようなものを発表していて、それは国土が中東のイスラム圏+バルカン半島+北アフリカ+ポルトガル・スペインとなっていて、歴史上一度でもイスラム化したことがある全地域を一つの国にしようという妄想である。これは不可能だろうが、かつてのオスマントルコに対して「アラビアのロレンス」がトルコからアラブの分離をさせた結果として、アラブにいろんな王国を作ってイギリスが委任統治した領域は、今考えるとアラビア合衆国としてまとまってもおかしくはない。何しろ同じ言葉を話し、同じ文字を使う人々なのだから。
だからISに参画するイギリス人が居ることは「アラビアのロレンス」を想起させるし、アラビア合衆国というビジョンがアラブ地域の人々に浸透する可能性もあると思う。実際にはかつての「アラビアのロレンス」はアラブにイギリスの委任統治をもたらし、王族を懐柔してアラブの人々の自立をさまたげてきたともいえ、それに反旗をひるがえしてクエートを併合しようとしたイラクは欧米にメチャメチャにされてしまった。今までアラビア合衆国はタブーであったし、過去にそうであったこともなかったので、アラブ各国は歴史上の過去に国のあるべき姿を見出すことはできない。
記事『イスラム国に味方するSNS?』では、ISの進撃の背景には、シリアの政府側vs反政府側、イラクの現政権vsサダム残党、アラブ各国の敵対・協力関係、などが複雑に絡み合っていて、お互いに身動きができないことを書いたが、中東はISに揺さぶられた後で過去に果たせなかった名実ともに自立への歩みをするように予感する。
それはポスト・ベトナム戦争では韓国の脱軍事政権とか、中国の開放政策、台湾・香港と中国本土の経済関係強化などが起こって、アジアの経済プレゼンスが高まったようなことが中東でも考えられるからである。
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