投稿日: Sep 26, 2014 1:53:37 AM
同分野の出版社同士が集まってコラボレーションして新しいビジネス形態をしようとしている方と、ブックオンデマンド(BOD)に関して話し合う機会があった。BODはデジタル印刷機の登場頃からすでに話題になっていたテーマで、いろんな紆余曲折があったが、今少し展望が見え始めている。というかAmazonなどすでに業務に組み込まれているわけだし、日本でも講談社がHPの輪転デジタル印刷と製本ラインを揃えて稼働している段階である。このところインクジェットのプリントエンジンも業務用で巻き取り用紙対応のものが続々と登場している。これらは長期的に従来のオフセット印刷小ロット分野の一角を崩すと考えられている。
しかし印刷会社にとっても出版社にとってもまだためらう点はいくつもある。講談社の場合も社内の編集側のためらいが大きかったと思う。その第一はオフセットと同じ品質は保証できないことで、それは最初から分かっていることだからオフセットの代替として使うのではなく、出版企画の見直しとかビジネスの再設定をしないとBODはできない。
新たな出版企画の実現には2-3年はかかるだろうが、今やっとそういったプロジェクトが姿をみせつつある。しかし実際には印刷製本の製造部分に何か革新があるわけではなく、新しい出版ビジネス形態をやろうとすると、コンテンツ、流通、課金などで解決すべきことがいろいろあることがわかる。
例えば多品種少量生産になると、編集から制作に至る工程の効率化をしなければならない。これはコンテンツのデジタル管理とかフォーマット変換とか、著者関連の権利処理や印税支払の業務システムとかである。後者はすでにシステム化された運用はあるだろうし、そのためのプラットフォームも開発されているが、権利関係とか許諾のとりかたそのものがまだ曖昧であるのでシステム運用で自動化というわけにはいかないだろう。ただ業務をオンラインで行うだけで、手続きは人的に行わなければならない。
流通は独自のものをもっているAmazon以外は大きな課題であるが、特定分野の出版ならECサイトで受注は可能である。それは従来の出版でもそうであったように思えるが、オフセットの場合は物流在庫を把握したり、倉庫間での移動などの業務があり、本をすぐに届けにくい問題があった。しかしBODで在庫なし(あるいは短納期)になると発送業務だけになるので運営は楽になる。
コンテンツのデジタルでのハンドリングは、PDFとかEPUBなどすでに活用されているものを使う限りは割と問題は少ない。つまりDTP以降、印刷製本まではすでにBODには対応可能で、しかもBODは製造工程の人員が大幅に削減されるので、実は印刷会社にとっては儲けどころが殆どないものになっていく。紙の輪転印刷機の導入をしても会社は機械の償却のために働いているのと同じようなことがBODでも起こっていくだろう。
しかしもしBODのサービスと一緒に印刷側が発送業務を行うとか、あるいは編集補助作業として変換処理とか権利関係の事務処理代行をすると、出版社は新たな負担を抱えることなくBODのビジネスを手掛けらえる。これはまだ手探り状態で、今のところ従来と同じ体裁のものが多いが、厚さや発行サイクル、価格などで今後いろいろな試行錯誤が必要なところである。
こういう努力を経ると印刷業の業態も変わっていくだろう。
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