投稿日: Jun 12, 2014 2:10:32 AM
歩いて楽しい東京は実現できるか
枡添東京都知事がオリンピック施設計画について見直すらしいことを言っていたので、何かと話題になっている新国立競技場のザハ・ハディド案のプレゼンテーション映像(https://www.youtube.com/watch?v=1Lzk2GeVRrA#t)を今更ながら見てみた。ザハ案はニュースなどで聞いてはいたがどのようなものであるのかは知らなかった。日本の報道では競技施設として観客席や屋根の工夫といったところに説明が集中しているのに対して、設計者のザハのコンセプトであるのは全く別の観点からきていることを感じた。
日本でザハ案が見直すべきというのは工費の高さとか必要スペースの問題があるからだろう。工費の高さは工事上の困難さが予測されるからで、競技スペースの外側にある構造物を省略したようなミニ化したデザインが最近作られている。確かに座席の工夫や可動式天井の構造などは受け継いではいるものの、これでは最初にザハが提唱したコンセプトの部分が殆ど無視されたものとなっている。これでザハは怒らないのだろうか?
最初にザハ案の図を見た時に、エイの尻尾みたいだなと思った。本日プレゼン映像を見ると、そこがザハのコンセプトのキモであると思えた。新国際競技場には8万人の人が集まるのだが、自動車で来るのではなく歩いてくることを前提にしている。それで八方から競技場に集まりまた散っていく歩道が外観の流線型デザインになっている。JR水道橋駅から出て、陸橋続きに後楽園スタジアムに行くような人の流れのパスをデザインしているのである。
それはこの場所が多目的のイベント会場でもあり、また併設で図書館など公共施設があることを勘案している。だから道路計画も含めた地域再開発案であるともいえる。
ではザハ案に賛成できるかといえば、欧米に比べると降雨量が倍ほどある日本で屋外の長いスロープが好まれるかどうかわからないし、天井にしてもワイヤー式で可動にするというがドシャ降りで大丈夫だろうかとか?日本で再設計が必要と思われる要素は多くある。それには日本側で専門家による検討の時間がかかり、簡単に建築図面はおこせないだろうから、目下の競技場案としてはやっかいなものかもしれない。
しかし、ザハ案が面白いと思ったのは、8万人が集まってきて、また帰っていくという、人のアクティビティが絶えないところをスムースに作ろうところだ。日本の設計者に聞いてもやはり同じように多くの人が集まりやすいことを前提に考えたというに違いないが、ザハ案は何かちがうところがあると感じた。これは空港でも後楽園でも武道館でもビッグサイトでも幕張メッセでも、人のアクセスに関して不満があるのに、新しい施設でもなかなかアクセス問題の手が打たれていないと感じていて、設計の順序とか優先順位を再検討する必要があると思うからである。
新幹線はJRのネットワークとつながっているから利用しやすいように、すでに鉄道が発達し乗り換え案内も充実した東京の再開発のキモは、残された徒歩移動の部分のわかりやすさや高低の負担軽減でないないだろうか。ザハ案のような革新的なことを突然やってしまうと、既存の駅や商店街などの商業施設との関係が壊れて文句もつきそうだが、逆に周辺の駅や商店街と一緒に「歩いて楽しい東京」という徒歩部分の再開発の余地があるのではないか。