投稿日: Apr 23, 2015 12:19:34 AM
一見すると同じようなことをするソフトウェアであっても、どのような人たちに使われるのかによって開発が全く異なっている場合がある。DTP開発が盛んであった頃に、マイクロソフトの挙動が注目されたが、唯一力を入れていたのはWordであって、それ以外は何もしなかったのは賢明であると思った。なぜならアメリカはソフトを沢山売る時のうたい文句が「シンプル!イージー!」と馬鹿の一つ覚えのように繰り返している時代だった中で、DTPはそうはならないことをマイクロクロソフトは感じていたと思えるからである(Publisherというおざなりなソフトはあったが)。
当時なら写植・版下とかデザインとかそれぞれ異なるスキルの利用者を想定しないとソフトが作れず、マイクロソフトのような万人向けのビジネスではDTP開発は難しいからだ。今クラウドのアプリとかサービスとかに焦点が移っているが、Adobeのように既存顧客だけを対象にしている場合はユーザインタフェースは従来のものを引き継げばよい。だが新たな利用者を開発しようとすると、どのようなスキルをもっていると想定するのかから考え始めなければならない。
Adobeソフトは当初はクリエイティビティを高めるということも強調していたが、印刷関係の領域を攻めるにあたってはプロダクティビティを強調するようになった。それでもバッチ処理の電算写植には敵わない面があったが、InDesignのころからプラグインで自動組版が作れるようになったので、ほぼ印刷分野を席巻できた。Adobeはクリエイティブの分野とプロダクションの分野の両方に使われる類稀なソフトを作り上げたが、一般にはどちらかに偏って、「帯に短し襷に長し」となったソフトが多い。
例えば雑誌を作る時には紙面のデザイン要素が大きくなるが、これをデザイナに丸ごと依頼して100ページとかをまとめてもらうとかなりの時間がかかる。そこで記事ごとに同時並行作業することが行われる。模式的に書けば、個人が1か月かかるような作業を、分業で1週間で仕上げることで、プロダクションという仕事を生業とすることができる。この場合にバラバラに作業しながら全体の進捗管理や品質管理をしたり、コンテンツを合体させたり切り離したりすることになる。こういうことが、「シンプル!イージー!」なソフトの場合にはたいていやりにくかった。
従来はパッケージソフトの内側にいろんな機能を詰め込むことをしていたがためにどこかで破たんしたのだが、プラグインやスクリプトで機能追加できるようになってAdobeは生き残った。クラウド上の作業環境の場合も、オブジェクトを加工する部分と、管理部分を切り離して並行して進化させることになるだろう。Adobeがやり残した部分が今の開発者の宿題になっているように思う。
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