投稿日: Apr 20, 2010 8:31:1 AM
電子書籍の話は、もう食傷気味な方へ
書籍を売って儲ける話は、ITで書籍の世界がどうなるかを考える上で一部分(最大でも半分)でしかない。もう半分の書き手を支援するビジネスというのが重要である。「国民読書年に 関する決議」 が「文字・活字文化振興法」の何年後かに行われて、2010年がそれにあたるという。詳しく調べたわけではないが、マスメディアのビジネスのために国民に本を読めというキャンペーンを政治力を使って行っているように見える。しかし書き手が増えていかないと充実した出版文化にはなっていかない。書籍の価値はどこかの専門機関に決めてもらうようなものではないので、自由な出版活動の中で切磋琢磨する出版文化がよい書籍を産み出すと考えていいだろう。
日本も高学歴化したので論文数や特許出願数は過去20年くらい相当伸びてきた。ノーベル賞をとる日本人もちらほら話題になるが、私的にはイグノーベル賞をとる人が出てきているのがうれしい。こういった知的活動は書店の棚にも反映してきているように思う。儲からなくても面白くためになる本を出す出版社はたくさんある。そういう意味では日本の出版文化は健在だといえる。国民読書年も知的刺激の循環というところにもっとフォーカスしたらいいのになあと思う。しかし知的刺激になってもよく売れるわけではないだろう。
ひとりで本を書くのは大変だから出版社の編集者が著者を育てるという雰囲気があったと思うが、これは本の高コスト構造につながる。それに対して、本つくりの生産性を上げるためにライターを動員してインスタントに本を作る体制ができた。これは知的循環とは違う動きであり、書き手を育てにくいだろう。では電子書籍は書き手を育てるだろうか。
書き手にとっては最初から電子書籍というのは実際にはつらいと思う。文章の推敲をするには章単位でもBook-On-Demand(以下BoD)にしてもらえたら、気分一新して落ち着いて読み返せるのに。また知人にレビューしてもらう場合でも、PDFファイルを渡したのではじっくりと読んでもらえないという気がしないでしょうか。
ゼミの教科書でも100ページくらいのBoDで必要数だけプリントするという使い方は便利そうだ。A5判100ページで500円なら学生にも買わせられるかと思うが、それならA3のプリント代は20円だからビジネス化はできそうだ。著者本人の推敲用として、関係者のレビュー用として、教室用として、マーケットテストとして、buyer向けの商品サンプルとして(日本の本屋には仕入れ担当が稀かもしれないが)、BoDで本を知らしめることを積み重ねた後に、出版社に評価してもらって既存の出版ビジネス(電子書籍も含めて)に載せる、という流れがよい本を世に出すためには自然に思える。つまり書き手を育て、ストレス・リスクが少ない出版モデルを創り出すのにBoDのビジネスが役に立つのではないか。それは必須になるのではないか、とさえ思える。
電子書籍黒船論で盛り上がるのも結構だが、何が本当は必要なのかも考えなければ…。