投稿日: Jul 19, 2011 11:3:51 PM
採算までの道のりは遠いと思う方へ
電子出版はボイジャーがもうすぐ20周年になるくらい長く取り組まれているが、それほどビジネスとしては広まっていない。だからこそ明白なのは紙の出版の延長上にはできないビジネスであるということだ。近年またぞろ電子書籍ということで出版業界が電子化するという幻想が頭をもたげたが、そんなことはないだろうという醒めた目も多い。しかし紙の延長上にないビジネスであるとしてもニーズさえあれば誰かが参入することになる。その意味ではタブレットやスマホの普及とともに電子出版は必然的に広まる。ただそれは出版界がコンテンツを提供するものかどうかははっきりしない。料理本を出した出版社は多くあったがCookpadにはなれなかったようなものである。
これは出版という仕事の価値をどう考えるかの問題で、出来上がった冊子に価値があると考えると、紙の紙面を画面に出すだけで終わってしまうが、利便性とか新しい楽しみ方という価値を考えると電子化はチャレンジすることがいっぱいあることになる。図のAは、従来の冊子イメージを再現する場合は、制作作業だけでできるものの、現状のところサンプルやフリーや電子書籍がせいぜいの用途であり、ビジネスの天井は見えている。制作側も紙用の図版や写真を流用するなら制作費は1点何万円になってしまって、おそらくやってられないものになるだろう。現状は編集側が電子書籍までは手が回らないから外注されているだけで、編集側が電子書籍に本気を出せば、文字ものならDTPのような工程はなくなってしまう。
しかし電子書籍の配信やプロモーションは、紙のビジネスをしていた人は得意ではなく、ここ(B)での代行業務で売り上げを上げる機会を逸している。AmazonやAppleを見てもここがネットでもっとも儲かるところなので、何らかの対抗ビジネスにチャレンジするところが出てくるはずである。現状では零細なオンライン書店が山ほど出てくる傾向だが、これはそのうち淘汰されるだろう。
利用者からみてタブレットやスマホを介する情報を楽しんでもらうには(C)の新たな価値をもたらす開発が必要になる。これは昨年からiPad雑誌で立派なデモがいろいろされたものの、もうひとつ電子雑誌が伸びなかったことを反省する必要がある。これはDTPのような制作環境を基盤にしつつデバイスにあわせた開発やチューニングも必要で、 要するに制作に手間がかかりすぎているのである。だからコンテンツが古くなるし、安くならない。いっそのことHTML5で全部作ったほうがすっきりすると考える人もいる。しかしそれでは労働集約的編集・制作作業から抜けられない。Webの制作がCMS化したように、スマホもタブレットも専用の制作環境がこなれたものにならないと、採算のあうメディアつくりにはならないだろう。
関連セミナー eBookに相応しい、アイデア、企画、コンテンツ、ビジネス 2011年7月22日(金)