投稿日: Jul 02, 2012 1:9:3 AM
読者と向き合った出版を指向する方へ
出版というのは決して下り坂の産業ではないのに日本の出版経営が下降しているのは、日本で抱えている構造的問題の解決に手がつかなかったからである。それについてここで再び繰り返して云々しないが、せめて日本の他の産業の平均点程度のシステムにしておくだけで経営は改善すると思われる。その典型がPOSシステムで、今何が何処でどう売れているかをリアルタイムで把握できない商売というのは珍しい。Amazonに頼むと出版社は日計の情報を得られ、出版直後の反応を見るためにAmazonでの動きを見るというが、そうでない流通が問題である。つまり出版企画のトライアンドエラーとか営業のPDCAがまわせないことが、出版での経営努力のやりようを狭くしている。
小規模の書店でPOS導入が遅れているのは、同じ小規模のコンビにではPOSが必須であるのと対照的である。コンビニのPOSは宅配便などのサポートや仕入れのためのカタログ・オーダーなど多様な情報端末になっている。これが店の経営の中心にあって、店長の必須の道具であるが、近所の書店で本の問い合わせをすると別途PCを操作している。小売店では限られた棚スペースの回転効率が鍵になるので、いかに商品が動くようにするかが経営であり、そのために仕入れを最適化しようとするが、書店は仕入れをしない不思議な業種である。
このようになったのは取次ぎのパターン配本という「おまかせ仕入れ」に依存してきたからで、この配本能力以上には書店の売り上げがならない運命共同体のようなものであった。その結果取次ぎ側の努力も、記事『文明生活の贅肉となった紙』に書いた返本&廃棄システムの最先端工場を作るという、ネガティブな投資を相当しているように思える。これから脱するには、書店側は地域特性や店舗カラーを考えて自分の顧客を強くイメージして、そのために独自の工夫をするように意識を変えなければならないし、それを実行する手段としてPOSやオーダーシステムを活用するというようになって、やっと世間並みのビジネスになる。
一方出版社の方は販売をパターン配本に依存することで、作家・著者と一緒に本作りに集中して励むことができたし、そういう仕事が好きな人が出版社には集まったのだろう。そのために読者とどのように向き合うかという点が弱くなって、ネットで流通するeBookのようにPOSシステムがなくても販売自体が把握ができる時代なのに、適切な対応することが不得意のように見える。これは逆に考えるとマーケットとうまく向き合う状況ができればeBookの立ち上げは容易になるだろうし、紙の書籍のマーケティングにも活かせるはずである。
本作りに励むことが問題ではないが、それはバリューチェーンの一部で、今の課題としてはビジネスのモデル全体として出版を再考する必要があるだろう。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催