投稿日: Oct 28, 2010 10:47:56 PM
印刷回帰は不要と思う方へ
Webでも電子書籍でも当初は印刷の模倣から始まって、しばらくすると「それではいけない」となって独自の発展を目指すことになる。まだ電子書籍は紙のイメージに引きずられ過ぎであるが、それはかなり場当たり的な模倣であって、紙の本から何を模倣すべきで、何は拘らなくてもいいのか、という整理をしている人は少ないように思う。デジタルデバイスが一番悩んでいるのはタブレットのサイズかもしれない。AppleのSteveJobsは最近他社の小画面をこき下ろしていたので、新しいiPadが小型として登場する可能性は低くなった。そうするとiPhoneのように解像度の高いものを出そうとしているのだろうかと推測される。高解像度ディスプレイは画像がリアルになる他に、文字も読みやすくなる。文字はプリンタやコピーの品質に近づくので、フォントデザインが重要になる。
ケータイ電話は片手で持って操作できるとかポケットに入るサイズという制約があるので、iPhoneのような大きさに収斂するのだろうが、タブレットはどうすべきか。これは紙の本が何々判というサイズの規格がいくつもあるように、選択されるようになるだろう。Appleがソフトとハードをあわせたデザインをするのと対象に、他の会社は分業になるので、AndroidのようなパソコンOSに近いものをベースで発達し、ハードは1万円くらいの安いものからバッテリーのもちが長いとか高解像度の高いものまで選択できる方向だろう。また読書専用端末も電子ペーパー以外はAndroid化したものになりつつある。
こういったタブレットのサイズは、本の判型とかノートや手帳など文具のサイズと相関があるのは、身体サイズや機能に基づく人間工学な設計になっているからである。印刷は長い歴史の淘汰の中の経験値として人間工学的な最適化をしてきたので、文字の形、大きさ、字詰め行数、レイアウトデザイン、などのタイポグラフィは電子ディスプレイの上でも引き継がれていくだろう。Webの初期にはWiredのようなサイケな表現が好まれてエミグレフォントも奇抜なものが出たが、それはそれで、Webが進んでリッチになるとともに、紙のデザイン要素がWebにも入っていき、今はWebでも多くの印刷時代のフォントが使われるようになった。それは必ずしも印刷回帰ではなく、印刷のデザインに係わったことのない若いデザイナも自然に使うので、時代を超えた要素があるのだろう。
印刷のフォントが使えても、足りないのはブラウザや電子書籍のビュアで印刷のような組版ができないことで、文字の大きさが変えられることが、必ずしも視認性や読みやすさの向上にはつながっていない。組版と言うとどうしても「印刷ではこうしていた」という過去の話になりがちだが、それは印刷紙面の制約から生じた機能も含まれるので、必ずしも全部が必要なことではない。もっと読みやすさに絞ったところを理解して、印刷物の真似ではなく、人間工学的に優れた表示を工夫すべき時代であるし、それがこれからの情報商品やサービスの差につながっていくだろう。