投稿日: Sep 09, 2010 11:10:2 PM
日本のeBookのボトルネックを避けて通りたい方へ
パソコンによるDTPが登場した時と比べて、eBookでは制作に関して一般的な関心の高まりがあることが大きな特徴に思える。それだけパソコンが社会に浸透したという背景があるのだろう。しかし自動車が普及しても自動車の仕組みが理解されているわけではないように、パソコンを使うこととデジタルでの情報処理の理解は乖離していて、それがビジネスに関係するとなると、いろいろトンチンカンな事業も出てくる。今電子書籍関係のいろいろな動きがあるが、部分的にはすばらしいアイディアや取り組みであっても、他の部分で大きな見落としがあるものが多い。記事「意外にビジネスが描き難い電子書籍」に書いたが、電子書籍を構成する要素であるフォーマット:ビューワソフト:販売流通:配信:デバイス:コンテンツ:対象読者などの組み合わせをどのように設計し提携・コラボレーションするのかというのは大変難しいので、これらをパッケージ化したプラットフォームとしてKindleとかiBookStoreが登場するわけだが、黒船プラットフォームが気に入らないとなると、自分でフォーマットからマーケティングまで背負わなければならないという堂々巡りに陥る。
つまりeBookを甘く見てはいけないのだが、やはりパソコンひとつでビジネスができるように思っている人は後を絶たない。自炊の手伝いとか絶版の電子書籍化とか、出てはすぐ消えていく。日本の電子書籍のパイオニア的なグループにもそれぞれの癖があり、上記の電子書籍を構成する要素に関して得意・不得意が見られる。その中でやはり気になるのは出版系の人はすごく技術に疎い点で、自炊や絶版が出版ビジネスを知らずに技術の面からだけ考えているのと対照的で、黒船プラットフォームが気に入らない根拠に相当の勘違いがある。そこにつけ込んで国内の出版サポート業界(ぼかした言い方でゴメン)がいろいろ提案をするようだが、出版界の技術勘違いをそのままにして、営業面だけでタイアップするのは最終的には黒船プラットフォームに負けてしまうだろう。
一番の勘違いは、出版界は自分達を特別な世界だと思っていることで、「技術は我々にかしずくべし」とでもいうような特別な要求を出してくるところがある。これはCTP化、DTP化、などを思い起こすと判りやすいのだが百年一日の感がある。つまり何度もくじけたeBookが今なぜ再浮上したのかという情報環境の醸成を無視して、組版とか些細なことに「あるべき」論をかざす人もいまだにいるが、誰も相手にしてくれないことに気がついていない。この人たちは業者の太鼓もち的接待で「ごもっとも」という周囲の声を聞き過ぎてきたから、記事「幽閉された産業 メディア業界」の状態になっている。
一方制作プロダクションは間に入って苦労してきた経験があるので、技術でできることとできないことが理解できて、その人たちの方が作家・著者に提案をすることが適切にできている。もし作家・著者のうち時代感覚とかビジネスのスピード感を重視する人がいるなら、出版社と話をするよりもプロダクションといっしょに電子書籍を出す流れができるだろう。黒船プラットフォームはまずはスピード感を重視していて、書籍全般をeBook化しようとしているのではなく、たとえて言えば「文庫・新書」といった一定のスタイルで値ごろもある範囲のものを作り出そうとしている。つまり今のHTMLの派生で可能なサービスをまずブレイクさせようと努力してきたのだ。この戦略の中ではHTMLでできないものなど手を出さないのは当たり前で、だからスムースに進む。日本のeBookの市場可能性を考える人は、こういった戦略に合意しそうな人々の連携でスタートしなければ、黒船に負けない速度で仕事ができないだろう。