投稿日: May 27, 2010 11:18:46 AM
電子書籍の目処が見え出してほっとしている方へ
日本でもkindleやNookに相当するものが出てくる時代になって(もともと日本は先行していたのだが)、電子書籍の流通ビジネスや、EPUB制作ビジネスというのが具体的に取り組まれつつある。これからビジネスのエントリーは増えていくにしても、ここで行われるのは殆ど紙の読書を画面に置き換えただけのものなので、どうしても紙の読書と比較したり牽制しあったりという議論が多い。しかしそれはどのように落ち着くかは大体見当がついていて、紙の本が好きな人は紙の本を買い、今すぐ読みたいとか、本が嵩張るのはいやとかの人は電子書籍を買うというような、使い分けがなされるだろう。電子書籍ならBookOffに流れる心配もない。売るほうも生産コストがかからないので、トータルにみると紙と電子書籍との並存はプラスに評価されるだろう。
しかしそこで出版ビジネスの電子化ネット化は終わるわけではない。作る側主体で紙の書籍の延長上にある電子書籍をフェーズ1とすると、第2フェーズは使う側の読書体験のソーシャル化や、eLearningに組み込まれた電子書籍、コンテンツを媒介としたコミュニケーションに比重が移っていく時代である。あるものは本の形式を残すかもしれないが、脱「本」でアプリケーション化するものもあれば、Facebookのアプリとして組み込まれてしまうものもあるだろう。要するに本というメディアの分解である。平たく言うと、クロスワードパズルの本は、本来は本の形をとる必要がないものだが、本の形式に閉じ込めて書籍流通に乗せてビジネスをしていた。しかしそれをデジタルで提供するのならばアプリケーションになる。俳句も本にする必要はなく、共感なり評価をリアルタイムにフィードバックできたほうが、受発信双方のコミュニケーションとしては好ましい。
このように紙の書籍流通の桎梏を逃れられるのならば、コンテンツは解放されてソーシャルアプリになって、よりダイナミックなものとなっていく。今日のYouTubeでもTV放送という時系列のなかから切り出した断片的な映像が、いろんなコミュニケーションの場に組み込まれて使われるようになり、さらにTV放送にはなかった映像コンテンツもどんどん増えていったように、断片化・評価・再構成が新たなコンテキストにおいて行いやすいようになるのがデジタルメディアである。
だから電子書籍フェーズ1は、フェーズ2の準備段階として取り組まないと、ソーシャル時代に花開くものとはならない。もっとも従来道理の紙の本もフェーズ1の電子書籍も残るのであるが、パイは広がらないという意味で、新たなビジネス機会としての意味は薄いというだけの話である。だからデジタルメディアビジネスを考えるために、単なる移植ではない、新しいPublishing構築に向けた、プロセスのデザイン、制度のデザイン、組織のデザインの考察をしたい。
#kix0521に続く、2010年06月25日(金)のKixプレセミナー2 #kix0625 は、10年後のメディアビジネス(その時はそう呼んでいないかもしれないが)を考えようという人のためのもので、デバイスの話、フォーマットの話の先に意識を進める目的で行われる。