投稿日: Jul 28, 2010 11:22:41 PM
電子書籍はブームに過ぎないのではないかと思う方へ
Webの場合もPAGEという言葉は使うものの、面積的な2次元の制約はないので、コンテンツをPAGE数としてカウントするとか管理するのは難しい。紙の本を参照する場合には「何ページをご覧ください」と言えるが、Webではどうするのか?直接リンクを貼ることはできるが、参照情報を別の処理をするのは難しい。このようなことは昔から聖書でやっているように、章・節・項というような番号を振れば可能になる。それでSGML以来はツリー構造で情報を管理することが行われている。これは表示デバイスが異なってページや文字の大きさが変わる場合にはいろいろ役に立つ。WordやDTPの世界でも自動目次や自動索引機能があるが、こういった処理が今後もさらに進んでいく。自動要約とか全文検索して該当箇所を示す場合に役立つだろう。
紙のコンテンツをデジタルコンテンツにして再利用する場合に、こういったデータ構造の変換が伴うところが障壁になっている。辞書や論文や学習参考書など過去から執筆要領がはっきりしている世界は文書構造の設計も行いやすいが、原稿を削ったり足したり動かしながら編集していたような紙の本はデジタル化の際に構造設計という壁に阻まれる。このような文書構造のない世界に対して便利なサービスを提供したのがGoogleであって、SGMLやXMLによる構造化文書がうまく広がらなかったがためにGoogleは自分の努力で今日の独占的地位をものにしたともいえる。
しかしゆるい構造でも作ればセマンティックな処理の可能性が拓け、Googleの世話にならなくてもデジタルコンテンツの利活用にはずみがつく。記事「コンテンツがフォーマットから解かれる」ではデジタルによる情報の液状化のことを書いたが、その特性をこれからどう生かしていくかが、これからのメディアビジネスの課題であろう。iPadなどのアプリで自分用雑誌を作ってくれるものがあるが、デジタルコンテンツをある見栄えのデザインで、読みやすいとか理解しやすいように、自動で加工するようなものが従来の出版に最も近いひとつの例である。しかしそれ以上に出版とは無縁に見えるようなところにデジタルコンテンツは使われることが増えるだろう。
それは時刻表や情報誌のようなデータが独立して使われるもののことではなく、従来から書籍の一部分がいろいろ引用されるように、twitterでもメールでも商業用の案内文書でも、引用元の全文検索から抜き出したところを参照することが電子書籍時代には可能になる。これはアフィリエイトのようなもので、引用元の販促にもつながる。むしろこういったコンテキストで書籍を発見してもらうとか興味を持ってもらうことが主流になった方が自然である。書籍のマーケティングとしても、どれだけ引用されるかというデータは「見える化」になるので、ビジネスはやりやすくなるだろう。これは考えられうる単なる一例である。
書籍というのは息の長いコンテンツなので、デジタル化の先に何が待ち受けているかを考えて事業計画を建てる必要がある。