投稿日: Jul 08, 2010 11:2:49 PM
電子書籍ビジネスの土台は固まる方向にないと思う方へ
東京国際ブックフェア(TIBF2010)が開催されているが、この機に合わせて電子書籍関係でいろいろな報道発表があったし、話題も盛り上がったことがtwitterを見ていてもわかる。しかしニュースが多い割には日本の出版状況が新たな展開を見せるかもしれないようなわくわくするものは少ない。どちらかというと、あの会社が前面に出てきたから我が社も、というような横並びな動きが多いのは日本的だ。大きい会社からは、考えもしなかったようなeBookのビジネスモデルは出てこないが、知らない会社からはいろいろな工夫がされるようになった。昨日亡くなられた市川昌浩氏が携わっておられたonbookはさまざまな出版機会の門戸を拓くものであったし、著者の立場で絶版本の電子書籍化を支援するサービスとか、これからの期待がもてるものも増えている。
しかし小さい会社にとっては本を世の中に広く知らしめることは難しいので、やはりeBookであっても、何らかの分業体制ができないと全体がうまく回らないだろう。しかも分業で中間のコストがかかってしまうことは避けなければならない。それらのことを考えた出版プロセスの革新がKindleとか海外のeBookビジネスであった。中抜きとかいわれるが、「抜く」云々は結果であって、考え方の基本は著者と読者の出会いを仕組み化するものであったはずだ。業界利害を前面に出して「黒船」を批判するのは見当違いである。そもそもアメリカには日本のような出版流通機構はないので、日本の出版流通機構を殺すためにそれらが開発されたような見方をするとか、日本の文化の危機論は因縁をつけているようなものだ。
記事 電子書籍「黒船」の正体は何か? で述べたように、過去の出版・印刷は効率的な水平分業の上に廉価なメディアビジネスを成り立たせてきた。その経験からeBookにふさわしい水平分業を構築するのが望ましいと思われるのだが、国内での調整に時間がかかる隙に、「黒船」が日本に来そうだということで、「黒船」抜きでできる垂直統合モデルをあわてて構築してきたのではないか。しかしケータイの3キャリア向けにコンテンツを用意しなければならなかった時代よりも、eBookのプラットフォームがいろいろ出てくるようになると、高コストで機動性に欠けるものになる。いろいろなプラットフォームへの対応をするサービスも出てくるだろうが、そういった業界内部でだけ回る仕事は、結局読者に高いツケをまわしてしまうことになり、全体のビジネスモデルから考えるとマイナス要因である。
著者のサポートから制作・管理・流通・決済などの垂直統合的サービスは、おそらくサービスをしている側にとっても大変な負担になるであろうし、従来の出版社にとっても紙の本なら大日本印刷でも凸版印刷でも同じように発注できたのが、別のeBookサービスになるというのは、長続きできないものであろう。電子書籍のフォーマットについてもガラパゴスフォーマット云々が議論されたが、それは今eBookビジネスの全般に及ぶ問題になりつつある。こういった問題が本来ならば三省合同の「官民」懇談会で揉まれなければならないのに、業界内利益が見え隠れする議論に終始してしまったように思える。長期的に見て持ちこたえられない垂直統合にこだわるのはビジネスとしては遠回りになるから損であるという認識がある人によって懇談会をすべきであった。そうできないならこのテーマも蓮舫議員のような仕切り役が必要になる。