投稿日: Oct 07, 2010 10:57:39 PM
電子書籍の発展を考えている方へ
日本で唯一成功した電子出版というと電子辞書である。海外では百科事典の巨大な情報集積をデジタル化することに力を注いでいたのとは対照的に、日本電子出版協会を中心に辞書の電子化を電子機器メーカーとともに行ってきた。幸い日本にはこういうガジェットを開発する力があったからだろう。そのノリでゼロ年代に入って読書端末と電子書籍にもチャレンジしたわけだが、電子辞書の時とは何かが違っていた。電子辞書は紙の辞書に比べていくつもアドバンテージがあった。ひとつのデバイスにいくつもの辞書が入るだけでなく、それらが横断的に使えるとか、日本語x外国語が双方向的に使えるとか、音が出る云々いろんな工夫のし甲斐があって、コンテンツそのものは従来のものでもサービス開発ができた。
しかしガジェットの限界もあり、上級者や研究者にとっては、イディオム追求とか深い内容とか、パーソナライズとか、deepな発展はできない。逆に初心者向けであったことが子供達がみんな買うというマスマーケットを獲得した。上級者には、アルクの英辞郎 on the WEB のようなWebでのサービスが発展していった。伝統あるOxford English Dictionaryも今後は紙の辞書を出さないという宣言をして、電子辞書一辺倒になろうとしている。今はモバイルが発達しているので、こういったWeb上で発達したものが、これからスマートフォンにも移植されていって、初心者から上級者までサポートするものになるだろう。例えば英語はよくできるがスペイン語は初心者というような人でも便利に使えるものが考えられ、Webにある各国のネイティブな情報にアクセスしやすくなるだろう。(9.11の折にアルジャジーラのサイトはアラビア語で、写真以外判らなかった!)
電子書籍の場合には読者の利便性が辞書のようには明確に捉えられないので、コンパクトにガジェットに新機能を詰め込むのが難しかった。AmazonKindleの電子書籍戦略は書籍流通ビジネスを従来のモデルから剥奪するECモデルなので、コンテンツやガジェット開発者の連合では抵抗・発展させることができない。だから今の電子書籍の土俵に上がるには別の戦略に立たざるをえないだろう。
今日で電子辞書に似た位置にあるものとして、ナビ・GPSがある。これは電子辞書が「言葉」でさまざまな情報を集約しているのに対して、全く個別に発生して管理されているコンテンツが、ある「位置」のところにオンデマンドで集約・整理されて表現されるものである。当然地図や風景というコンテンツはGPSと直結しているが、文字で書かれたものでも、電子書籍ならメタデータでロケーション情報を持たせることもできる。そのようなコンテンツにどう位置情報を持たせるかという規格ができると、紀行、料理、方言、芸能、歌などの書籍コンテンツを、GPSインフラの上の応用展開ができるだろう。
電子書籍の将来を真剣に考えるならば、電子書籍のサービスの深化と、販売機会の増大、などいろいろなことを、今日のデジタルとネットの発展に合わせて戦略化できる人材がまず必要である。