投稿日: May 12, 2011 1:22:7 AM
スマホ時代にプリントはどうなるのかと思う方へ
今年のCESでmemjetの実機のデモがされていたのに、メディアではほとんど話題にはなっていないのが不思議だった。家庭やSOHOにおいてインクジェットでバンバン高速にページ印刷をすることに、人々は関心を示していないかのように思えた。日本のプリンタメーカーはカメラのメーカーでもあったので写真品質にこだわってきた。そこで単価が高くてちょっとしかプリントしない機械を開発してきた。これは功を奏しているといえる。しかしそれはプリンタの用途としては世界的に売れているとはいってもニッチ市場であって、メインストリームとはいえない。オフィス用途や印刷の世界において新たな需要を生み出すような根本的な革新は、コピーの時代から考えてみてもあまりなかったのかもしれない。
10年位前にはオンデマンド印刷が結構話題になっていて、小ロットのオフセット印刷分野や、大型高速プリンタの世界に少なからず影響を与えた。これがそのまま印刷の業態を変えてしまうほどには進展していかなかった。10数年前にカリフォルニア大学の教材をBookOnDemand(BoD)で提供するプロジェクトを見に行ったことがある。これはPODベンダーと印刷会社と出版社が協力して行ったものである。出版社は大学の教科書をPDFで提供して、ゼミなどではその複数の教科書の必要部分の抜き刷りをバインドしたものを生協がBoD製作して提供する。
BoDは最近三省堂にもやってきた。アメリカでもその当時以来いろいろなところで行われている。しかし思ったほどの広がりはみられない。Amazonはネットで本を売るようになって、子会社でBoDの会社をもって、出版社からコンテンツのデータを預かって、印刷本が供給できない場合はBoDで提供するようなことをしたが、コンテンツのデータを預かっているなら、いっそのことネットで配信してeBookリーダで読んでもらう方向に進んでしまった。Kindleである。今でもBoDの子会社はあるが、そこでは「BoDで本を作ってみませんか」というサービスと平行して、「あなたのeBookを作りませんか」というのも並存している。
Amazonは伸びるのがBoDでもeBookでも、どっちでもよいという考えでコンテンツからのサービスをやってきたのであろうが、答えはeBookが正解だった。BoDの意味がないというのではなく、むしろ記事「Book-On-Demand が標準になる」に書いたように、Bookというビジネスのライフサイクルの一部として重要になるが、BoD単体でのビジネスは難しいかもしれない。しかしプリンタを製造している会社にとっては、プリントの応用がどのように他のメディアやビジネスと関連しているのかを知ることは大変だろう。eMailが普及しはじめたときには、いちいちプリントして読んでいる人がいた。ところがスマホ時代にそんなことは行われない。プリントとデジタルメディアの併用というのは、今大きな変化の時に来ているといえる。