投稿日: Dec 05, 2014 12:18:2 AM
かつて、20年くらい前には、良い印刷物を作るための講座などをよく行っていたのだが、きれいとか、インパクトとか、役に立つとか、コストパフォーマンスとか、タイミングとか、いくつかの印刷物の評価軸を多角的に検討して、こういう印刷物にしようという設計をすることが一番難しい問題であった。受注産業としての印刷業者からすると、この問題は発注者側で決めることで、決まったものを決まった期日までに決まった値段で納品するのが印刷屋であるという認識が一般的であった。つまり印刷屋は製造には責任を持つが、その仕様には関与しないという立場であった。こういう切り分けが一概に悪いとはいえない。それは印刷物の設計をするプロがちゃんと居れば何も問題はない。
現実には文字組や製版がアナログからデジタルに変わっていくことで、発注者側が印刷物の設計をすることが次第に困難になっていった。アナログの時代は腕が良くて気の利いた職人さんを見つければ、だいたい思い通りの印刷はできた時代が非常に長くあったのだが、電子化の時代では工場側は設備投資をするので、それが変わると出来ることが変わっていく。しかも数年すると設備は入れ替わって高機能になっていく。 印刷工程も変化はしたが、前工程は全く違うものに変わっていったので、文字組や製版の書籍は作れないほどになってしまった。
そんなわけで、文字組や製版の文化的な面での断絶が起こったともいえる。近年はDTPも落ち着いてきたので、また組版を問題にする人も出てきている。昔は組版ルールのリファレンスが写研であったのが、今はJISの組版とかがリファレンスになってしまった。製版に関してはデジタルカメラになったために、普遍的でオーソドックスな製版知識というのはなくなって、非常に特殊なレタッチとか作業工程上の狭義の製版しかないので、これも書籍にはできない。
しかし書籍は出ていなくても印刷物の設計をする人はここら辺の知識も持ち合わせていないといけない。
20年前くらいから、プリンティング・ディレクターという肩書で、発注者がどのような印刷物を作ったらよいかを手伝う人が現れてきた。そこでそれまでの座学としての印刷制作講座から、体験・気づき・コミュニケーションの方に比重を置いたプリンティング・ディレクター講座というのも始まった。ところがこういったものはなかなか書籍にはできないで今に至っている。
今、印刷物を作ろうとして、何らかの助けが必要だと感じたら、きっとネットで検索するであろう。その方が、まさに今の時点でサービスをしているいろいろな業者に直接コンタクトできるからである。書籍やそれをベースにした座学も乗り越えられてしまう部分があるということだろう。
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