投稿日: Sep 23, 2014 1:1:30 AM
アメリカのシングル盤レコードがどういう状態で販売されていたかの記事『 コンテンツが裸でも売れるアメリカ 』において、処分品のレコードは25~50セントでスーパーの入り口のワゴンセールでビニールに10枚パックされて$2.99とか、25枚で$4.99などで投げ売りされていたことを書いた。
これらは正規流通と区別できるようにラベルにドリルで穴をあける場合が多い。この穴はbbホールと呼ばれ、bbはバーゲンビンを意味する。廃棄をあらわすスタンプを押す場合もある。LPであってもジャケットもろともドリルでラベルあたりに穴をあけるとか、コーナーカットをして何分の1の値段で再流通するようになる。上の写真の「.29」は29セントで売られていたものである。
これらは日本でいえば「ぞっき本」といって古本屋に新古本が出るような扱いである。「ぞっき本」は小口に赤い線が入っているように、正規流通のものと区別されて安く売られている。日本のレコードでこれに類するものがあったかどうかはよくわからない。日本では本もレコードも卸売ではなく小売店が委託販売のような返品自由な状態で商売するので、在庫をわざわざ安い値をつけて処分しないで、送り返してしまう。レコードの場合はレコード会社が回収して塩化ビニルを溶かして再利用することになっていた。
だからレコードの小売店における売れ残りは発生せず、廃棄もないので一見するとリサイクルが完璧にされているようではあっても、レコードを録音した音楽家にとっては作品が容易に葬り去られてしまうシステムでもある。例えば最初に3000枚プレスして300枚しか売れなかったら、2700枚は回収して溶かされるから、世の中にはお買い上げいただいた300枚のみが残る。そのうち買った方も処分するので、月日が経つといったいどこに何枚残っているのかわからなくなる。
アメリカの場合は同様に最初に300枚しか売れなかったら2700枚は投げ売りされ、それもかなり売れ残るのだろうが、1000枚やそこらは世の中にゆきわたり、50年経ってもおそらく10枚くらいはどこかに収納されている。
今ヨーロッパのDJが古い45回転盤を探しているのはそういう中に再評価すべきものが時々あるからである。つまりその時点での歌のヒットは必ずしも歌がうまいとか曲の良しあしによるのではなく、時流や人気度合いによるのだが、50年経って聴くとやはり歌の良しあしで再評価されることになっている。当時見向きもされなかった曲が近年になって再発売されるケースはヨーロッパではよくあるのだ。
こういったリバイバルが可能なのは、レコードの回収処分をしなかったからである。記事『 白い黒人 』では Jhonny Winter が下積みのスタジオミュージシャン時代に45回転盤を残していることを書いたが、これらはかなりの数が残っていて値段はたいしてつかない(何千円)が、Sun初期に数百枚プレスされて現存で1枚しか残っていないようなものの場合は100万円で取引されたものもある。
日本のように再販売価格維持制度によって統制されていると、コンテンツが投げ売りをされて世の中に散らばって残るということがない。再販制度はマス媒体にはいいのかもしれないが、まだ評価を受けていないクリエータや作品を永遠に葬ってしまう制度でもある。
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