投稿日: Sep 06, 2012 12:35:23 AM
話題性がビジネスには結びつきにくいと思う方へ
毎朝NHKで「まちかど情報室」という番組をやっていて、以前なら「王様のアイデア」とか「あると便利goods」のようなものを紹介している。見て面白いから続いているのだろうが、面白い以上に役立つのかどうかは疑問である。メディアビジネスと実社会の乖離を思わせるものとして、「YouTube広告で暮らす5人家族」は考えさせられるものがあった。mosogourmet(妄想グルメ)というアカウントで料理を中心に1000本以上をYouTube投稿し、お母さんが子どもにキャラクター弁当やお菓子などを作るという、 日本のクレージーな動画が特に海外で人気を呼んでいる。しかしこれらは人々の実生活を表すものではなく、単なる話の「ネタ」作りに過ぎない。収入はYouTubeパートナープログラムにより、動画に広告を入れることで家賃以上くらいのものが得られているようだ。
NHKがヤラせを行うと叩かれるだろうが、個人がクレージーなことをしても社会的に問題にされることはない。そういう点ではTV局よりもネット動画の方が面白いものが次々出てくる可能性がある。そして話題になれば広告やアフィリエイトなど収入の口もある。以前は広告のプランナ・クリエータが遊び半分のような仕事をしていた領域を、素人でも行えるようになったともいえる。また勝手広告のようなものを含めてメディアの中で素人の登場の局面は増えてくるが、それが大きなビジネスに結びつくようなことにはならず、あくまでロングテールにとどまるだろう。
冒頭の「まちかど情報室」の便利goodsはヒットするかどうかは疑問なものが多い。本当の「あると便利」は宣伝しないでも自然に使われている定番商品であって、隠れたヒット製品としてどこの家庭にもあるコンソメスープの元やカレールー、古くはかつおぶしなどもそうであろう。こういった定番製品の中にも老舗のブランド品から安物までいろいろあるが、それは薬でいえば有名メーカーのものからジェネリック薬までいろいろあるのと似ている。つまり生活に必要なものがこなれていくとそのようになるのだろう。そして日本の社会がモノ不足をとっくの昔に超えて、物質的には成熟化したというのは、日常の買い物で定番製品の比率が増えていったことからも分かる。だからこそ面白みのある情報を人々は求めるのだろうが、それはビジネスに還流してはこない。
こういったことは、ベンチャーにもみられる。facebookのイノベーションが思ったほど進んでいないことを記事『facebookが機会損失をしているところ』で触れたが、facebookに連動してゲームアプリで伸びた会社も、他のソーシャルアプリも、みんな登録数は増やしたものの、それで何か新たな展開には行けずに伸び悩むか、悪い場合には後退し始めている。これらも「王様のアイデア」とか「あると便利goods」のアプリ版のような人気のとり方をベースに投資を呼び込んだわけだが、ビジネスに還流してはこない例である。一方さほど新たな工夫がないようなCookPadや旅行・経路などのベーシックな便利さを提供するサービスの方が充実していく。
これらは、TVで宣伝している効きそうなイメージを与えるサプリメントと、どこにも宣伝していないが効果は確かなジェネリック薬、という対比を思い起こさせる。メディアビジネスにおいてはどちらもあるのだが、成熟化社会の性質としては後者に比重が行くのではないかと思う。