投稿日: Jun 29, 2011 11:13:23 PM
出版と情報サービスの溝を感じる方へ
MEDIVERSEセミナー「コンテンツのデジタル化でビジネス活性化」は、あるシリーズの始まりとして位置づけているのだが、実はこのテーマは蔵から取り出した10年前のテーマでもあった。いや20年前のテーマといってもいいかもしれない。そろそろ時代が追いついてきたと思ったので開催するのだが、なかなか難題が多くあるなという感想である。
20年ちょっと前に私はSGMLをISOの規格にあげるための日本委員会の作業をしていた。SGMLの源流はIBMなどデータベースの世界と、出版コンテンツの世界の2つがあり、私は出版コンテンツの側から委員になっていた。SGMLは1986年にISO 8879となったが、パソコンなどでは重過ぎて動かないものだった。アメリカの出版社や大規模なマニュアルを制作しているところは、印刷用フォーマットに縛られないコンテンツのフォーマットを求めていたもので、軍や官庁や重厚長大産業にSGMLは採用された。
それから10年たってパソコンのパワーが上がり、インターネットも普及してXML 1.0 が1998年2月に勧告された。この時にはホストコンピュータではなく、クライアントサーバの三層アーキテクチャを基本と考えて、データ層をアプリケーションやプレゼンテーションとは独立させて運用管理するモデルであった。つまりデータはアプリケーションにも縛られないもので、企業を横断して使えるモデルとなり、それは今のマッシュアップにつながっている。いわゆるどのWebページにでもGoogleMapを貼り付けられるようなことが起こり、コンテンツの活用の場は広がる。
そして10年後の今、クラウドの時代になって利用者はサーバの運用管理も必要なくなり、データの管理に専念できる時代になろうとしている。しかしデータの発生現場やコンテンツを膨大に抱えているところが、なかなかこういった環境を活用しようとしているとようには見えない。いったい世の中にどれくらいのコンテンツホルダがこの時代を自分たちの出番であると思っているのだろうか? 映画案内の「ぴあ」が休刊になったが、「ぴあ」は映画に関するデータベースサービスも売っていた。しかしデータベース検索以上に、ネットでライブにデータを使ってもらえるモデルにはならなかった。
コンテンツのビジネス化に関しては、技術の潮流を理解した上で、音楽のGracenote CDDB のような視点、Cookpadのようなサービス、など今までのビジネスの枠にとらわれない柔軟な発想が必要だろう。今回のセミナーの案内をして判ったのは、日本の出版社に入社する方というのは本なり雑誌なりを作りたいから入ったのであって、情報を売るとか情報でサービスするつもりの人はあまりおらず、コンテンツ活用という点で悩んではないな、ということである。これは当たり前のようではあるが、今後の事業戦略としては大きな機会損失になるかもしれない。
ホストコンピュータ→三層サーバ→クラウド という流れはIT関係者にとっては常識かもしれないが、これをメディアビジネスの文脈に翻訳することはなかなか大変である。
関連セミナー コンテンツのデジタル化でビジネス活性化 2011年7月1日(金)