投稿日: Jun 09, 2012 1:58:25 AM
アーカイブが常識を覆す
チャックベリーと並ぶチェスの黒人ロックの代表であるボ・ディドリーのトレードマークが四角いギターなのを見て、若い頃は変わったことをする人だなと思ったのだが、後になって実はシガーボックスギターという手作り楽器が南部ではポピュラーであったことを知って、ボ・ディドリーはそれのエレキ版をやったのだなということが判った。
彼の"You Can't Judge A Book By The Cover"の歌詞でも”I look like a farmer”と言っているしカウボーイハットのようなものをかぶって、非都会的な演出をしている。ボ・ディドリーによる「ボ・ディドリー」という曲のリズムも実は凄く古いものの再現なのだ。シガーボックスギターの手作りは近年になって人気で、YouTubeでもよく見られる。
トップの写真はBBキングがシガーボックスギターを持たされているところである。しかしこれはギターか?雰囲気としては三味線のようなもので、6弦とは限らず、3-4弦が多いと思う。手作りの場合の飾り方を見るとドブロのようにしているものもある。古いBluesのレコードに関しては必ずといっていいほどギターをもった写真があるが、シガーボックスギターはあまり見たことはない。結論から言えばBluesがレコードにされるようになって、次第にちゃんとした楽器としてのギターを持つようになったと思える。レコーディングアーチストのステータスとしてちゃんとした楽器をもつということだったのかもしれない。
エリッククラプトンがチャリティーのためにギターコレクションを放出したことがあったが、白人ミュージシャンは楽器を収集する癖がある。ジミヘンドリックスはステージでギターを燃やしたり壊したが、一つの楽器に執着することはなかった。来日ミュージシャンでもブルース系はギターを持たずにピックだけ持ってくる人がいる。ジミヘンドリックスの下積み時代は自分のギターは質屋に保管してあった。80年代にシカゴでライブのクラブで見たのは、若い黒人は日本のアマチュアが持つような2万円程度のギターで凄い音を出していたことだった。つまりJazz以外は黒人にあまりギターに対するこだわりを感じないのである。
レコードが作られる前の黒人音楽はわずかな写真や絵でしか知ることはできない。リンカーンが奴隷解放宣言をして南北戦争が始まり、北軍が支配したところは奴隷は自由の身となった。当時の新聞・雑誌を見ると白人が目の当たりにした黒人の生活の中にギターというのは出てこず、フィドル、バンジョー、アコーディオン、笛がポピュラーである。ギターは20世紀に入って後から入ってきたのだろう。奴隷解放の頃にどんな音楽があったのかは残っていないが、シガーボックスギターのように現代でも断片が残っている。Bluesハーモニカの一部はアコーディオンの音を真似ていると思われるものがある。またダンスも後々までも伝わっていることが、過去のフィルムがYouTubeに上がるようになってわかったことである。こういったことを合わせていくと、なぜ黒人がギターを持つようになったか、また持たなくなったかというのも見えてくる気がする。
今まで音楽ジャンルの歴史はレコードでたどるのが当たり前であったが、他の資料を合わせると総合的な見方が出来るようになる。こんれはインターネットや検索エンジン、それとアーカイブのおかげである。そしてとりわけYouTubeの動画によって民俗的なテーマの過去の研究は白紙に戻るものが続出するのではないかと思う。