投稿日: Jul 15, 2010 11:13:46 PM
本当に電子書籍元年なのか不確かな方へ
ブックフェアは例年のように行われ、デジタルパブリッシングフェアも大変な集客をした。iPadも多くのブースに陳列された。しかしこの道18年のボイジャーを除くと、このイベントに震源地となる要素はそう増えたようには思えない。むしろ、まだ今までの出版のままでイケるという雰囲気さえ感じられる。コンテンツホルダー側で大転換を宣言したり、やってみようというのは個人の作家であったり、ひょっとするとその後ろにいるマーケッターなのかもしれないが、版元であるようには見えない。特に日本の書籍に関しては、長期低落傾向から下げ止まりになった安堵感もあるかもしれない。実際書籍というのはそれほどスポイルされているわけではなく、近年増えた大型店でもブックオフでも人を集めている。
しかし下げ止まったからといって安堵するわけにはいかないのは、従来の書籍ビジネスの抱える問題で解決したもの、あるいは解決の糸口が見えたものは皆無だといってもいいからである。eBookや電子書籍で人々の気をひこうというのは別に悪くは無いが、ここに書籍ビジネスの問題解決のチャンスがあるのだと考える攻め型と、過去の膠着した書籍ビジネスのモデルを再び持ち込もうとする守り型では、180度方向が違う。今のeBookブームにはこの同居できないものが同居している不自然さがある。ブックフェアはボイジャーとか一部の主張を除くと、後者の守り型のトーンが感じられる。
アメリカでも10年前のeBookが一度ポシャって、今再び大きなチャレンジをするようになったのは、10年前の課題をいくつも解決してきたからである。DRM問題はネットでのストリーミングでの解決なり、そのためにコンテンツはクラウドに置くようになった。読書端末の開発コストも、そのOSやアプリ開発環境も10年で大きく変わったものをうまく取り入れた。利用者の側も日常的にECが浸透し、自分の興味のあるものを欲しいときにネットでオーダーする習慣がついているし、そこではユーザ認証があるような点も今度のeBookでは活かされている。
つまり日本のケータイコミックのようにデバイス普及に乗っただけではなく、過去のeBookの失敗をIT環境やライフスタイルの変化に合わせて技術と経営の両面で総括した上で出てきたのが、AmazonのKindleに代表されるビジネスモデルであるので、「彼らの真似はしたくない」とか「日本独自の」ということが先にたって別のビジネスモデルを考えるのは大きな見当違いである。つまり日本では日本の状況に合わせてビジネスを考えなければならないとすると、まず日本の過去の電子出版のうまくいかなかった総括から始めなければならない。しかしITに関しては世界共通に進んでいるので、アメリカを毛嫌いしてもどうなるものでもない。
過去の総括やITの理解を本気でするならば、出版の経営面で立ち向かうべきことは見えてくるはずで、そのビジョンも無く日本独自の防波堤を築こうとするのは、事の本質を隠すだけである。そのような世の中の実態からかけ離れた施策は日本の出版界が置かれたビハインドな状態をさらに悪くするだけだ。