投稿日: Mar 08, 2013 1:23:43 AM
思いがけないものがヒットすると思う方へ
昨年話題になった映画で、消えたミュージシャンを探す映画 "Searching for Sugar Man" が日本でも放映されるとか聞いた。ミュージシャンの名前はSixto Rodriguezで、詳細はWikipediaにあるし、音楽もYouTubeにライブがいっぱいあるので見てみるといいと思う。特に"Sugar Man"という曲が今は有名である。彼はベトナム戦争時代のフォーク歌手で1970年前後にわずかなレコードを残しただけで音楽シーンから消えたのだが、20年後の1990年代の南アフリカで大ヒットになって伝説の人なった。それで "Searching for Sugar Man" というドキュメンタリー的映画がヨーロッパで作られて世界的に知られるようになったようだ。
私はこの伝説には興味があまりなくて、感動もしないのだが、いろいろ思い出すことがある。まず彼の歌がなぜ20年後に着目されたのかというのは、当時の南アフリカでの学生運動の盛り上りがベトナム戦争当時のアメリカのそれに似ていたと言う共通の境遇が考えられる。人の作った作品の評価というのは絶対的な点数のような数値評価が不可能なもので、作品の生まれ出た環境を感じ取るとか理解できないと何もいえない。この場合は複雑なことに、音楽家を題材にした映画に共感するという形で、再び音楽も着目されてCDが出ているというルートで、再び60歳代のRodriguezのライブ活動が盛んになっている。
高齢化ミュージシャンのライブ復帰というと、私にはDion(ディオン・ディムッチ)が印象深い。彼は1950年代末から60年初頭にかけてアイドル歌手として活躍して、日本でも大ヒットになった Ruby BabyRunaround sue などがあり有名人であったが、ポップ歌手としては引退していた。しかし1989年頃からバンド活動で再び音楽を出し始めた(Dion 2007 - The Wanderer)。ライブでは昔のヒット曲もするのだが、自分の音楽的な背景を全面に出してきた。つまりアイドル歌手というのは、レコード会社に従って歌っていかなければならない面が強かったのが、中高年バンドになって本当にやりたいことが出来るようになったのだろうと思った。収入と言う意味ではヒットすることはありがたいが、レコード会社が儲けるためにヒット曲を出すことよりも、やりたい音楽をすることが本質だろうと思う。
"Sugar Man"のロドリゲスの場合は最初からフォーク歌手であってヒットなど狙っていなかっただろうし、レコードとしてはやりたいことしか残していなかったというのが、後の時代でも再び採り上げられた要因だろう。彼は後に哲学専攻に進んだようで、音楽業界にしがみつくつもりなど毛頭なかったのだろう。しかしそういうプロを目指さないミュージシャンが大勢いるから、アメリカやイギリスが良いコンテンツを作り出す土壌があることになるのだ。