投稿日: Sep 11, 2011 10:13:44 PM
新聞は家族共有メディアと思う方へ
早稲田大学ソーシャルアントレプレナー研究会(WSEI)で「新聞販売店イノベーション研究会」が9月10日に開かれた。そこで朝日オリコミの鍋島裕俊氏が新聞産業界の現状と、今後新聞販売店がエリアステーションになる可能性のプレゼンおよびディスカッションが行われた。面白い点は元来食ったり食われたりのライバル同士である朝日と読売の販売店の方々が同じ状況に置かれて同じ意識を持ち、今後歩調を合わせて新たな試みをすることも考えられる点である。つまり自営業のような販売店に対して圧倒的な権限を持つマスメディアの影響力が弱まり、その分だけ販売店は自立的な経営にシフトしなければならなくなっている。この研究会は年内あと3回ほど行われる予定なので、そこで新聞以外の世界との結びつきによる新たな経営の可能性について議論されるだろう。
ところでマスコミの衰退は散々いわれているので、もはや説明の必要はないだろうが、9/10の議論を聞いているとこのまま下降して無くなってしまうような見方もあるのはどうかと思った。1000万部近く発行する新聞というのは世界的に異例であって、NYタイムス、LAタイムスでも100万部内外であるように、日本の新聞が半減しても立派なマスメディアであり、将来のことを考えるならば、今の半分とか3分の1となっても成り立つような内部改革が最優先の課題であるが、役所の改革のようになかなか進まないのだろう。ともかく新聞社も系列販売店の維持をすることは困難になり、両者の関係は緩くなりつつある。そこですでにいろんな副業を始める販売店があることも、議論の中で明らかになった。
販売店の副業と入っても従来業務とは無縁のものではなく、例えばチラシの作成とか、エリアでの宅配とか、高齢者支援など、アイディアも含めれば町のコミュニケーション拠点・流通拠点・集金代行など便利屋とか、いろいろなことが考えられていて、それらを実現するためにITCが使えるはずだというのがソーシャルアントレプレナー研究会との接点だ。
これらの議論の中で感じたことは、やはり新聞の特性に根ざしたものでないとやりにくいだろうなということである。鍋島さんのプレゼンの中で、新聞を読まなくなった日本人の話があった。これは1975年と35年後の2010年で読者の年代分布がどう変わったかをあらわしたもので、ピンクと黒のグラフでは全く様変わりをしているようではあるが、下図の赤線で表したように10代では新聞を読まなくても中年になれば読むように変わっていったことがわかる。20代30代となるにしたがって新聞を読む人が増えるのは、世帯を構成して子供が学校に行くようになると親も新聞を読むようになったということをあらわしている。また男性に対して女性の方が読む率が少ないように見えるが、年とともに男性は少し減るのに対して、女性は少し増える。
新聞の減少の実態を推測すると、人が世帯を構成するに至る時に社会不安とか大事件があるかどうかであると思う。また新聞を止めるかどうかを判断するのに、家族の利用度が関係していていて、やはり若年層が読むところがなくてそっぽをむいていると切られやすいし、若年層が世帯を構成する際にも新聞をとらないことがふえていくのだろう。新聞を読む習慣も読まない習慣も成人になる前後の20年ほどにわたって徐々に形成されるものであるということだ。その結果として、子供に「お受験」させようというような家に新聞は定着している傾向があると思う。これは新聞元来の姿といってもよいことだが、そうしてしまうと発行部数は100万部とかにせざるを得ない。
つまり日刊紙は家庭の情報環境であり、新聞を媒介として家族の会話なり、子供の意識付けがされるので、日本で意識や価値観が多様化すると、1000万部も発行する媒体では個別要求に応えられなくなり、生き延びるのはその何分の1で成立する新聞に限られるであろう。だから新聞販売店も系列ではなく雑誌販売店のようにいろんな品揃えをしなければならなくなるであろうし、その読者に対するサービスをエリアごとにできる点で新たなサービスを開発することになるだろう。目下語られているところでは、世帯の特徴にあわせたチラシの配布とかであるが、そういったことを実現させるための情報サービスは個別販売店ではなく共通で使えるようにならないと、新聞というメッシュ状で面的広がりのある媒体の特性は活かせない。