投稿日: Jun 05, 2011 11:29:27 PM
知財権は我々を守ってくれないと思う方へ
今の知財権に非対称性とか非民主性が感じられるのは知財権を動かしている力が、いわゆるプロの権利者の側からのものに偏っているからである。TVで素人を取材してレシピでも生活の工夫やモノ造りの工夫でも紹介している場合があるが、これが企業だと法務担当に相談してから放映の許諾をすることになるのかもしれない。生活者はお互いに暮らしの工夫をシェアするつもりがあるからタダで情報を提供するのに、それをネタにメディア上でビジネスをしようと考えているところは、情報伝播をコントロールしようとする。しかしソーシャルメディアの時代には、レシピならCookpadにアップされたり、他の工夫でもYouTubeにあげられたりしてしまう。
CookpadやYouTubeで、全く市販の情報をコピーして掲載する場合は、知財権の侵害になるであろうが、それを誰かがアレンジして派生させてしまった情報は、もうコピーかどうかの判定はつかなくなるであろう。しかし知の世界も情報の世界もそのようなことをずっと行って発展してきたのだから、派生に枷をはめるわけにはいかない。それでもパロディで名誉毀損とか似ていることでの係争は絶えない。最終的には権利者が了解しないものは取り下げざるを得ないのだが、係争の手間暇が大変な無駄である。そこでccのように権利者の了解を最初から明示する方法が考えられた。
しかしccがそれほど広がっているとは思えない。先端的情報企業で取り入れているところはあるものの、ccが単なる係争回避手段である間は、一般にデフォルトのものであるとは思ってもらえないだろう。ccがもっと法曹の世界に影響力をもてるような仕掛けをソーシャルメディアが作ることができるといいのだが…。記事『権利が暴走する時』は情報共有する社会的必要性を権利者側にも感じてもらいたいというつもりで書いたのだが、例えば、ソーシャルメディアなら問題がありそうなところに対して勝手「陪審員」のようなことができるので、知財権の権利者も情報共有をしたい者も、係争になる前にいろいろな人の意見を聞いて自分の判断に役立てることができるだろう。
つまり突然訴えられてしまうのではなく、「どうなの」「やばい」「いいんじゃない」という反応を可視化すると、次第にバランス点をみんなが認識しあうことになるだろう。今でもYouTubeのコメントにはそのような反応も書き込まれることがあるし、権利侵害になりそうなものの配信を止める仕組みもあるが、ここらをもっと総合的に情報化して、みんなが権利に関係した投稿の扱いに関するログを共有できるようになると、裁判があまり信頼できないとしてもトラブルを避けることはやりやすくなる。
現在の日本のコンプライアンスの対応は、触れるべからずになって、権利問題を完全にクリアにすることが有り得ない過去のアーカイブは公開できないことになってしまう。Playboy誌はネットでバックナンバーを全部見られるようにする購読制を発表したが、日本ではそのようなビジネスはないことになる。そのような情報を封じ込める指向ではメディアは生き残れないだろう。