投稿日: Jul 02, 2013 12:58:46 AM
従来の分業は再考すべき
明日から始まる東京国際ブックフェア関連の5展示会の案内をやっと開いてみて、まるでここ数年の間は時が止まっていたのかというような幻覚にとらわれた。昨年はKoboで騒いでいていよいよ黒船上陸という緊張感があったのだが、それもなく、Kindleもフツーに使われるようになっているし、出版デジタル機構・緊デジなどお騒がせの話題もないし、EPUBだ中間フォーマットだという議論もない。展示会にはAmazonも楽天もAdobeも出ていないようだし、そして基調講演・角川歴彦、eBookフォーラムのモデレータがインプレス、公開セミナーがパピレス・ボイジャー、というのは私にとっては10年前のデジャブのようなもので、出かける気が失せてしまった。
しかし状況が何も変わっていないわけではなく、この展示会においても第1回目となる新企画が2つあるらしく、「コンテンツ制作・配信 ソリューション展」「プロダクションEXPO」が加わっている。コンテンツ制作とプロダクションがどう違うのか詳しい説明がないのでわからないが、前者が技術で後者が作業の会社というわけかたなのであろう。これらは電子出版関連のビジネスを要素分解してグループ分けした結果として5展示会にしたのだと思うが、今の時点で分野わけをするのは時期尚早だろう。
この考え方は長い歴史とともに分業が非常に発達した紙の出版文化を電子出版にあてはめているのだが、今こういった分解された要素を組み合わせて何かを創り出すとすると大変な時間とコストがかかってしまって、ビジネスにはならないだろう。テレビの世界も分業が発達しているので、それらの仕組みの上でネット動画の配信をしようとするとコストが合わずに失敗する。むしろ今起こっていることは、Amazonのようにすべてを持っているところがKDPのような自主出版まで可能にして突っ走っているように、コンバイン(組み合わせ)の妙でサービスを可能にする時代であると思う。
日本独自でそのような情報提供が出来ているのはニコニコくらいだろうか。結局デジタルとネットになった時代の出版ビジネスの立ち位置を問い直して何らかのビジョンを描いたと思われる会社があまりこのイベントには出てきていないといえる。一方でもう官製プロジェクトを採り上げるわけにもいかなくなったらしく、役人系の登壇は今回はゼロのようである。このイベントの主催者の苦悩というのを感じるわけだが、同時にターゲットしている出版関連業者もどこに焦点をあてるべきか迷いが多いのだろう。
以上のように見てくると、ここには登場しない水面下のeBookとか電子出版というものの方がずっと巨大で、いろいろな可能性を秘めているようにみえる。ケータイ小説やコミケなどサブカル系のコンテンツはごくフツーに人々に受け入れられているし、一方でGoogleや気象庁が提供するデータはマッシュアップされてWebやスマホ向けにいろいろなところに組み込まれている。本当は参考になるものは多いのだが、なぜか出版界ではあまり話題にはなっていない。