投稿日: Jun 08, 2010 2:41:3 PM
WWDCは大きなトピックスがなかったと思う方へ
AppleのWWDCの様子がほぼリアルタイムに伝えられるようになったので、ちらちら見ながら思いついたことだが、今のAppleの取り組み方を見ていると、これからはpublisherそのものになろうとしているように考えるのが妥当だ。publisherといっても本や雑誌だけではなく音楽も映像もあるので「メディア企業」の方がふさわしいかもしれない。従来なら新聞・TV・ラジオ・netのメディアコングロマリットに相当するのだが、そこはITとNETの時代なので分社化しないでApple一社で運営したほうが効率的にメディアビジネスができるはずだ。もしそれを狙っているなら、Appleは既存のメディア企業よりも数段先を行くものになる。CNNがTVの革命児になったように、Appleもメディアビジネスの革命児になるかもしれない。
出版や印刷という古い産業では日本でも水平分業が進みすぎてクロスメディア的な垂直統合が大変行い難いが、Appleならやれるポジションと力量がある。そもそもこう考える前提として、いったいAppleは今後どのようにビジネスを持続発展させる可能性を持つかに焦点をあてると、それは技術ではないといえる。iPadがシンセンのFoxconnでDellやHPと同じように組み立てられていることからしても、ハード自体はどこでも発注できるものになりつつある。AppleがiPhoneやiPadで成功したのもLook&Feelの製品設計にある。ここに他社が真似できない点があったからこそ、ここ2年近くで一挙に収益がよくなったのである。それをベースに今後、デバイスの販売実績→コンテンツ販売→広告モデル、という展開が可能になる。だからメディア企業と呼んでもいいと思う。
Appleの場合、世界中に広がったiPhoneやiPadのユーザー数を考えると、TVの3大ネットワークのどれかよりも大きい「チャンネル」と見なせるのではないか。つまりAppleブランドの「独自チャンネル」をもったので、コンテンツに関しても放送コードのようなブランド維持の厳しい審査をするとか、自分のブランドでコンテンツホルダーと直接商売するので他の中間流通の入る余地がない30%のマージンをとったりするのではないか。単なるコンテンツのポータルとか2次流通というスタンスではなく、コンテンツをデバイスの次の大きな収入源とみているのではないか。
そのコンテンツ流通の先に広告ビジネスがある。これも従来の代理店ではなく、Googleのような人的な要素を排したeBusiness的な営業と、クラウド的にコンテンツ・コンテキスト・ユーザのマッチングをするものになるだろう。Appleの垂直統合の中のモデルなので、Googleは入りにくいし、Amazonよりも気の利いたサービスになる可能性もある。ここでもTVの特定のチャンネルのような、独自の雰囲気をAppleはコントロールすることになるだろう。
Appleが今その方向に動くなら追い風となるべき傾向が2つある。第1は脱PC化傾向で裾野の広い受動的なユーザがスマートフォンに集まってくることと、第2にはCPUの技術革新が踊り場にあって、いずこもARMベースのような似たり寄ったりの機能で他社と差を付ける開発余地があまりない点である。今無理にCPUパワー不足をOSの工夫で乗り切ろうとしても開発コストに見合う成果はでないだろう。この点はリソースの少ないAppleにとっては幸運で、今はシンプルなデバイスのままどんどん出荷して「チャンネル」としての価値を大きくできる時期である。そうすると、先にpublisherとしての道が拓ける。