投稿日: Aug 08, 2011 11:17:21 PM
Webの無秩序とeBookの秩序を感じる方へ
Web以前から電子出版はあったし、CD-ROMでプロジェクトグーテンベルグの古典的書籍の配布もあった。CD-ROM百科事典や広辞苑もあった。ページをめくるボイジャーのExpandedBookもWeb以前からある。しかしどれも日常の紙媒体と比べうるメジャーな媒体にはなれず、Webがそういったコンテンツすべてを呑み込んでいった。ある時期PDFの電子ブックを専用デバイスで見るようなものも出てきたが、WebでPDFを読むものには勝てなかった。ドキュメントの形になったものを世の中に公開するにはWebはもっとも都合のよいものとなった。しかしWebで電子出版の有料モデルはあまり発展しなかった。
英語で言えばeBookの一言で済むが、日本語ではさまざまな呼び方がある。それは過去のWebに負けた電子出版が再起をかけるときに名前を変えてきたからだ。どこかに電子ドキュメントに関する定義があるわけではないし、本当に必要な定義は別なところにある。まず一般には公開しないクローズドなドキュメントは特殊フォーマットでもよいし、利用者を管理してパスワードをかけるとか、利用に時限をもうけるとか、どのような管理も可能になるので、決め事は必要ない。決め事が必要なのは一般に公開する場合で、これを有料・無料に分ける前に考えるべきことがある。
それはインターネットのオープン性とリアルタイム性によって、ドキュメントが完成に至る途中の過程も情報共有できるようになったことである。アメリカのネット新聞は不確定な記事についても多くのコメントが寄せられることがあって、そのコメントこそがニュースになっている場合すらある。Wikipediaの共同編集も同じような意味があり、大震災が起こると毎日のニュースが書き足されていく。つまり紙の百科事典のような静的な情報ではないのである。こういった共同編集型の文書は今後ともWebであるだろうし、これが特定専門分野の場合は会員制で有料ということもある。
一方で内容はfixしていてこれから編集は行われないドキュメントがある。これはすべてアーカイブと読んで区別してもいいのではないか。それがeBookなのではないか? その特性は最終編集日が記されていることにあり、それにより新旧の比較ができる。これは「タイトル+日付+作成者」で一意に区別できると思う。同名で改定が多い文書も日付で順番がわかる。無数に発生する公開ドキュメントアーカイブを厳密に管理するのは無理であるが、クリエイティブコモンズによる利用許諾とか、シェアするためのレジストリなど、いろいろな仕組みが考えられている。だから文書がどこでどう使われるか以前に、作成・編集ツールが自動・半自動で書誌情報を埋め込むようになれば、アーカイブの緩い管理はしやすくなる。
eBookの特性は世の中には論文でもマニュアルでも、すでに一定のスタイルをもったドキュメントは多く使われているように、作成段階から秩序のある世界になっていることが多い。それはオープンな流通においても管理の基盤となり、その中で有料化を認知してもらえるようになれるだろう。たとえば電子図書館で借りる本はローカルに保存できないが、電子図書館に返却せずに購入に切り替えるとローカルに保存できる、というルールができると、図書館と書店はバッティングしない。つまり無料・有料を区別して、立ち読みと自分の所有との差、DVDレンタルと購入の差のようなことを考え始めてもキリのないところに行く事は明白で、それよりもアーカイブの流通に必要な要件を先に考えるべきである。