投稿日: Apr 23, 2012 12:8:27 AM
値決めに悩んでいる方へ
Amazon問題をきっかけとして、4月18日に、 【研究会】E-Bookの価格問題を考えるをE-Book2.0 Forum主宰の鎌田博樹と行なった。日本ではeBookにおいては再販制度は適用されないので、価格の設定は版元と小売の両側で決めるものとなる。これは記事『コンテンツの価格決定権をめぐって』に書いたようにAmazonのような強い小売が主導するものと、大手出版社が主導的にAppleに働きかけたようなエージェンシモデルの2つが混在するようになっている。前者は世の中の一般の商品のように書籍の値段も売り場ごとや時と場合によって異なるものとなるし、後者は定価主義に近く出版社が値段を決めて流通には一定の取り分を与えるエージェンシーモデルである。Appleの30%というのは流通取り分であるし、アメリカでは大手出版社同士が値決めで談合をしたというのが問題になった。
実際には本の価格を決める『談合』が社会的悪なのかどうかは判断に苦しむが、大手出版社にとっては紙の書籍とeBookの価格のバランス感を考えていて、今の立ち上がりの時期において価格が市場での競争でメチャメチャになるような混乱は避けたかったのが本音で、暴利をむさぼるとか何らかの悪巧みがあったとは思いにくい。なぜならいくらAppleと談合を成立させたところで、Amazonでは別のビジネスが進んでいるのだから、大手出版社が市場全体を支配するようなことにはならない。あくまで自分たちの読者に対して、ある価格の秩序を示すだけであり、それは大手出版社が「eBookの健全な発展のために」行なうべきこととだ、考えていたのではないかと思う。
鎌田さんの話では、大手がエージェンシーモデルでeBookの価格を上げてしまった結果として、電子本が売れないという起こらず、したがって出版社の儲けは増えてしまったという。そもそもがロングテールである自主出版などはAmazonの$9.99どころか、その半分の$4.00が基準で、それ以上の値段をつけるのが強気、以下が弱気、というのが今の相場だそうだ。であれば大手の売れる本は自由に高値をつけてもらっても構わないようだが、それがまずい点があるとすると、個人のフトコロの書籍代を圧迫してしまって、他の本が売れなくなることであるという。
つまりeBookは図書市場の20%を越えたとはいえ、これから発展させてていくべきマーケットなので、そこで多様な面白いコンテンツが登場しないと、eBookそのものが伸びず、ゲームや動画や他の隣接分野に個人のフトコロを持っていかれるという危機感が一方にはある。例えば若い人が聞いているボカロ・アイドルのCDというのは、もはや音楽産業が企画するのではなく、モバゲーなどが考え、AKB48の握手券ならぬ、アクセス権をつけて販売を伸ばしている。このようなことはアニメの会社がコミックを出すとか、コンテンツのビジネスのボーダーレスが起こりつつある現象のひとつで、それが真っ先に見える形になったのが若者向け市場であるといえる。
従来の書籍出版の伝統にのっとったバランス感のあるeBook価格と、もう一方は他メディアも睨んだ攻めの価格設定という2面での動きがあるといえる。大衆的なコンテンツになればなるほど、デバイスやメディアの変化に敏感にならなければならないのだろう。
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