投稿日: Dec 26, 2015 12:55:53 AM
近年のECの動向を振り返ると日本の電子書籍だけがおかしいことがわかる。Kindleが伸びていないのは日本だけで、その理由は出版社が新刊を電子書籍でプロモーションすることを避けているからとしか思えない。出版社がブレーキをかけていない漫画については電車の中でタブレットで見ている人も増えた。
エンタメ分野で電子書籍に先行する形で音楽のダウンロードやストリーミングがビジネスモデルを変えてきたわけだが、こちらは日本においてもデジタル&ネットで新たなコンテンツが生まれるようになって、すでに従来の音楽産業によるCD販売とは別の世界が並行して存在する。おそらく電子書籍もコンテンツの発生の段階から従来の出版業に代わるものが登場しなければ、市民権を得られるような状態にはならないのだろう。
ケータイ小説とかラノベの分野はかなりネイティブにデジタル&ネットなプレーヤーが育っているのだろうと思うが、私はその手のものに興味が無いのでよくわからない。それに続いて出版業とは別のところから趣味趣向のマニア的なメディアが興ってくるのだろうと思う。マイクロプロセッサが登場した時にマイコン雑誌が出来たが、それらは理工系のコンピュータ関連書籍を出していた出版社とか理工系の大学関係者によるものではなく、一介のアマチュアが手さぐりで未熟な原稿や編集で始めたものであった。音楽雑誌などもそのようなスタイルで始まるものが多かった。出版のノウハウよりも「好き」とか「熱心さ」がメディア作りの原動力であった。
漫画の場合はコミケのような熱心さに支えられた同人誌から、ネットの投稿サイトへと少しビジネスモデルが見え始めるような進化をしつつある。次はデジタル&ネットなメディア化がどのようにされるのか見ものである。
今年は図書館関係の話題が何かと賑わったが、意外に電子図書館論は進展していないように思える。インターネットの黎明期の方がそういう話は多かった。そしてプロジェクトグーテンベルグのようなアーカイブが世界中で取り組まれて、Google が図書館を電子化するというようなところまで行って以来は、止まってしまった感がある。
個別の出版社では過去のバックナンバーを全部自分で電子化することに取り組んでいるところは増えたので、水面下ではそれらを今後どのようにビジネス化するのかという話になりつつある。
極言するとネットが電子図書館のようになる日が来る。それは青空文庫を始めた富田氏のような考え方が自然であり、知的云々とかを議論していけばもっとも妥当だからである。ただこれはビジネスモデルではない。逆に考えると、電子書籍のシステムとか図書館のビジネスとかに携わる人々の中に、富田氏のようなビジョンを持つ人が少ないということでもあると思う。
デジタルコンテンツ関連の話題はいろいろあっても、ビジョンを語ることは減っているかもしれない。富田氏のようなレベルのビジョンをあたためている、ネイティブにデジタル&ネットな人々が増えてくるといいなあと思う。
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