投稿日: Jan 31, 2011 10:50:33 PM
出版は未熟な産業と思う方へ
出版社でなくても書籍や雑誌を発行している組織は多くある。ある進学産業大手が一時出版活動をやりだしたが、そこで気付いたこととして、事業部化して自立させるのは難しいというものだった。組織の看板として出版をすることはできるが、他の事業部と並ぶ経営にはならないと判断して閉鎖した。ここには根の深い問題がある。今デジタルメディアで有料化が困難とか、ネットの値付けは安すぎ、などずっとこぼしているが、狭義に出版を考えると、そもそもそういうもので、20世紀後半の日本は特殊な事情で儲かったに過ぎないことを忘れている。時計が逆回転して日本の社会が良くなったりはしないのだから、過去を基準にしたものの見方はやめなければならない。
記事『もっと活性化するカルチャー事業』ではソフトバンクの中のでは「カルチャー事業」というくくりに代表されるように、リクルート、ベネッセ、TUTAYAなど出版の周辺企業の方が老舗出版よりも伸びたことから、過去からの出版事業の延長上にカルチャー事業には進まず、カルチャー事業が出版も手がけるように変化したことを書いた。出版社・取次・書店という三位一体の枠組みは、出版が延びているときは効率的に機能したが、既存の出版からはみ出たことをするには桎梏となった。ASCIIが月刊誌にフロッピーを付録として付けようとしたときに苦労した話は有名である。昨今ではDNPが雑誌のオマケに力を入れたが、それ以外にも出版の枠組みを変えるようなことをDNPが仕掛けているニュースが多くなった。これも出版界の自己変革の可能性が見限られた結果であろう。
つまり出版という業務はなくなったりはしないが、それを行うのは出版社や出版業界の専売ではなくなり、むしろ出版社の半分くらいは経営が自立できない状態になるのではないか。これは外部環境がよかった時代だから成り立った経営のままでは、記事『組織が人を成長させるとき』に書いたように、時代に合わせて必要な能力を獲得して、事業を好循環させて経営を伸ばす仕組みを内蔵していないからである。この経営が成り立たなくなる半数の会社で働いていた人は、記事『クリエータの民族大移動』のように、今なら仕事を転換するチャンスがある。今の電子書籍は紙の本のアナロジーだから、編集者のキャリアが活かせる仕事であるからだ。
しかし電子書籍は過渡的なもので、小規模な出版でも「カルチャー事業」というくくりになる時代が来るであろう。過去の出版を引き継ぐべき新たな経営のスタイルとかビジネスのモデルというのがこれからの大きなテーマである。もし出版文化を守るべきだというならば、安心して出版業務に専念できるような、出版のインフラとなるような新たなビッグピクチャーを描く必要がある。AmazonはKindle80万点に加えて、さらに短編専門のKindle Singles、さらにこの先もいろいろなモデルを出して、出版したい人が機会を得てリターンを得る仕組みを提供するだろう。中間フォーマット云々はどうでもいい話で、今後どのように出版が続けられるのかを考えていない出版経営者が多いこと自体が、20世紀的出版モデルの限界を示している。他のマスメディアも同様である。