投稿日: Sep 11, 2013 1:41:7 AM
どうやって組版を知る?
組版のレベルを向上させたという電子書籍の日本語リーダーを開発している方と話したことがある。若い人でベンチャーの支援を受けていて、某有名なリーダーにも採用された。要するに組版エンジンの開発であるが、ちょっと写植の領域に食い込んでいる感じがした。とはいってもこれからどんどん写植みたいにしていきたいわけではなさそうだった。他の仕事は編集・制作プロセスをネット上で円滑にするような、もっとビジネス直結の仕事であって、組版はどちらかというと個人的興味で入れ込んでハマっている感じがした。おそらく紙の本を読んでいる時に比べて、縦組の電子書籍では物足りなさを感じたことがあるのだろう。
一般に組版のお手本は紙の出版物にあると認識されていて、画面上で新規に読みやすさを追求する人は滅多にいない。これはDTPの始まりの時と似ていて、写植と違って画面を見ながら自由に作業できるので、過去の組版ルールにこだわるよりも、もっと読みやすいものを指向してもいいんじゃないか、という考えで写植のルールには無いような組版の工夫もいくらかはされたものの、日本語組版の進化というのはなかった。強いて言えばDTPのベースが欧文組版だったために drop caps のようなことが日本語でも可能になったような例はいくらかある。
しかし、JISの組版方法を決めた頃は日本語DTPソフトの仕様を検討している時期でもあって、JISは写植の文化をそのままもってくるのではなく、TeXのような組版エンジンを想定していて、文字クラスで振る舞いを決めるような考え方だった。この「写植+コンピュータ組版」の考え方は、それまでの日本語組版の手続き的な(手作業的ともいえる)タグづけ作業を簡略化させたし、組版の世界をSGMLやXMLといったタグによる情報処理に近づけることができた。
別の言い方をすると、JISの組版方法では、委員の間の暗黙の了解でコンピュータ処理に不向きな組版のファンクションは切り捨てたともいえる。だから組版のタグは整理されてしまって、電算写植に比べるとアレがないコレがないということはあるのだが、手作業で表現しようと思えばできる。ただしその機能の情報交換ができない。
JISの組版方法はたいていの日本語組版エンジンに取り入れられ、そのサブセットはEPUB3にもなった。あれから20年を経た今、出版社からの入稿の実態をみていてもDTPで致命的に足りないと思われる点は無いように思う。今日的な課題としてはリフローの日本語組版をどこまでするのかであろうが、ふと周りをみわたしてみると、そういう検討に加わる人が激減している。かつてのJISやW3Cの時の委員の方々はほぼ引退組みである。
Webで個人のホームページで組版のことを書かれている方はおられるが、他の世界と同じく、トンデモな記事も多いから、今後さらに組版についてまとめていこうとすると最大の問題は人材難のように思える。