投稿日: Sep 27, 2012 3:46:6 AM
中途半端は成功しないと思う方へ
音楽産業も大衆本の出版も20世紀の初頭から次第に大きく育ったが、初期は何百・何千という数の生産であったのが、ヒット作が出るようになると2-3桁大きなビジネスになった。音楽の場合はビッグビジネスになることがわかって、録音からレコード生産の技術に投資がされ、次第に洗練されたレコードができるようになり、かつビジネスはグローバル化していった。イギリスでロックが盛んになった源流も、第2次大戦でアメリカ軍がイギリスにもやってきて、兵隊さんの娯楽で音楽も上陸したことから始まる。これは占領後の日本と似たようなもので、アメリカ軍が世界を巡ったことがアメリカ音楽を広めたともいえる。
音楽でいえば戦後に洗練が進んでHiFiにもなったにも関わらず、Beatlesのようなプリミティブなロックがブームになるとか、黒人音楽の単調なリフ音楽がロックに影響を与えるというような、洗練とは反対のベクトルも出てきた。必ずしも技術でこんなことができるというだけでビジネスが伸びるわけではない。しかし両者は無関係なわけではなく、ロックによって音楽技術はまた別の方向に発展することもあった。それで楽器やミキシングの世界もすっかり変わってしまった。そしてまた時々思い出したようにアコースティックなサウンドも評価されるし、今ではレコード万能ではなくライブに比重を置くアーチストも出てきて、録音盤ビジネスと実演は距離を置きつつある。要するに技術が支配することもないし、技術に制約されることもないのである。
書籍の場合は印刷技術の発達である程度多様化とかグラフィック化はしたが、音楽のような直感的な伝播力はないのことと、翻訳が必要という言語の障壁があったので、ビジネスの様相が大きく変わることは長らく無かった。ところが昨今はそれらのコンテンツをITで扱って従来の出版のビジネスの枠組みを変えてしまおうという動きがAmazonを筆頭に興っている。Amazonは紙の本も扱っているから従来の出版を崩壊させることはないだろうが、大きな狙いはかつてないデジタルコンテンツの流通にあるといってもよい。アナログ放送や映画の配給はグローバルなビジネスになったが、紙コンテンツに関してはグローバルビジネスに取り組むところがなかったからである。だからそこはGoogleもAppleも狙っている。こういうことを踏まえてeBookの戦略は考えなければならない。
出版のグローバル化は音楽から100年遅れという感がある。eBookというのはグローバルな販売やコンテンツの言語の入れ替えなどに向いているので、すでに子供の絵本ではマルチリンガルな構造をもったものが生まれている。構造さえキチッと作っておけばネットなら後から徐々に各国語のテキストやフォントを追加していくこともできるだろう。電子書籍を紙の代替とか置き換えとして取り組むのでは何もわくわくするものはないが、紙のビジネスでは出来なかったことがITで可能になると考えると、出版にはいろんな分野からチャレンジャーが集まってきて、また投資も行われるようになって、デジタルコンテンツの盛り上がりがされる兆しはある。今は技術がコンテンツを引っ張りまわす時代に入りつつあるように思える。
しかし本つくりだけがしたいのなら技術に振り回されない生き方もできるだろうし、紙の本の風合いを武器に戦うフィールドもあると思う。出版デジタル機構のような100万冊プランはどっちにも向かない中途半端になるように思える。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催
10月17日(水)16:00-18:00 新しい出版マーケティングの時代