投稿日: Jun 10, 2011 11:20:49 PM
版面権はどうなる?と思う方へ
KindleでもePubでも、Webのテクノロジーを引き継いでいる電子書籍はリフローできることが大きな特徴であるが、一方で文字の大小を変えることが必要なのかという意見も出版側及び利用側の双方からあがっている。Webでもサイズ固定に設定できるように、リフローできる構造にしておいてリフローさせない仕掛けを作ることは簡単だが、逆はあり得ない。Webにおいてはデザイン・レイアウトを重視する場合は、利用者に勝手な文字サイズに変更されて見られたのでは、表現物の意図が伝わらないという考えからくる。しかし実際にレイアウトを重視しなければならないようなWebページはそれほど無かったことが実証されているわけでもある。
今iPadのようにデバイス側の仕様が決まっているなら、そこで再びレイアウト重視の表現は貫徹できることになる。確かにiPadの電子書籍やCGを使ったアプリでは、見た目に素晴らしいものが作られているが、Webのように爆発的に情報提供が増えるようなメディアでは、素晴らしいデザインは追いつかなくなるであろう。でもpaper.liのようなまずまず素晴らしいレイアウトをスタイルシートで作ることはePubなどのリフローなら可能になる。
こういったことは、「コンテンツとページレイアウトの分離」という永年のテーマであって、編集制作が出力デバイスの制約に縛られていた時代には考えることもなかったのだが、出版の電子化とともに深く広く進展してきた技術である。深くというのは電算写植のように活版時代を超えるくらいに多様で緻密な組版レイアウトできるようになったことと、広くというのはワープロ、パワポ、からWeb、電子書籍と範囲を広げていることである。このようにさまざまなメディアに同じ技術が使えるようになることで、ひとつのコンテンツが容易に多くのデバイスで使えることも意味する。今のhtml、xml、ePubなどはこのようなシナジー技術の中核になりつつある。
さて出力方式にコンテンツが縛られていた時には、出力デバイスのからくりを熟知しているところが制作の中心になるのでビジネスにもなった。リフロー時代の幕開けはDTPであって、海外で出版された本のデータを受け取って、テキストを日本語にして日本で出版することも可能になった。これで翻訳出版は容易になったものの、組版ビジネスはページごとのレイアウトがなくなってページ単価が安価な商売になっていった。制作というビジネスの独立性は失われた。電子書籍に例えるなら、Kindleでもブラウザでも組版エンジンさえCSS3対応レベルになれば、黒船が日本で容易に出版できることにもなる。
日本の出版社は電子書籍の恩恵だけ受けたいという自己都合で対応しようとしているように見えるが、「コンテンツとページレイアウトの分離」という歴史的構造変化がメディア業界を覆って、業界の構造も変えようとしていることを見落としている。コンテンツビジネスはこの視点で再考する必要がある。
関連セミナー コンテンツのデジタル化でビジネス活性化 2011年7月1日(金)