投稿日: Dec 21, 2012 2:15:32 AM
黒船効果はこれからだと思う方へ
日本の国の統計は製造業に偏重していて、サービス業は大雑把過ぎて使いようがない。だから情報処理産業の実態というのもよくわからない。出版というのは印刷と同じように経産省の管轄で、以前は紙製品と同等の扱いであったが、今は出版は大分類が情報通信業の映像・音声・文字情報制作業に出版業があり、印刷は大分類が製造業で中分類に印刷・同関連業がある。産業の実態としても製造業は何々工業会というまとまりがあったが、情報やサービスは業界団体の活動が少ない。しかし日本チェーンストア協会のように自主的な団体でも大きな自己革新を成し遂げたところもある。ここは稀な例かもしれないが、小売といっても扱うものはいろいろなのに、さまざまな業態のところが一緒にビジョンを掲げて統計をとり、研鑽を積んでいったことが成果をもたらし、日本の小売の状況は一変した。
出版も実際はものすごく多様性があるので、共通の問題解決というのは考えにくいのだろうし、また多くの経営者は人と一緒にすべきことなどあまりないと考えているだろう。12月19日の研究会「EBOOK2012年の積残しと2013年の予測」の話もある意味ではバラバラだったのだが、それはあくまで実際に作るものの多様性の反映で、それらの話をもっと抽象化して考えないと共通のビジョンというのは認識しにくい。これは大変な作業になると思う。何が大変かというと、そもそも出版界は共通の問題解決や共通のビジョンを求めていないだろうから、たとえ周辺業界の人が何らかの新たな出版ビジネスのソリューションを考えたとしても個別の社内事情の話しに終始して、これからの方向について出版界の人とコミュニケーションをとるのが大変なのである。
ここ2-3年の間で、出版社の中でも新しい対応とかeBookのプロジェクトを手がけた方は多く居て、少しは風向きが変わったかなという気がしているが、それ以上の変化が周辺で起こっている。上記記事ではAmazonが日本の出版商慣習に風穴をあけたといったが、その風穴からどんな風が吹いてくるのかというと、おそらく既存の出版社が新しいことを始めるよりも多くの新規参入があるのだろうと思う。従来ならそういう新規参入組が何らかの団体を形成して、既存業界と相容れない状態が続くことがよくあった。リクルートが出てきた時には、あんなものは出版ではないといわれた。近年ではケータイ小説も、あんなものは文芸ではないといわれた。コミケの二次創作もけしからんことになっている。しかし既存業界も新規参入もAmazonという同じ土俵でビジネスをするようになると、共通の問題やビジョンが見え始めるのではないだろうか。
国の統計や施策はあればあったでよいが、なくても日本チェーンストア協会のように自主的ビジョンを掲げて動くようになることが産業に活力をもたらす。通販協会JADMAのことを何度か書いているが、伸びる産業の裏にはそれなりの結束や自己改革があるものである。アメリカの出版社協会などはIT業界と一緒にSGML・XMLの活動をして時代を先導するくらいの活動があったために、eBook化にもタイミングよく対応できたのだろうと思う。Amazonに対して個別企業が太刀打ちできないし、国産プラットフォーム養成をして対抗するのも短期間に出来る話ではない。日本でもAmazonを前提として出版をしなければならなくなることで、ビジネスルールのリセットに向けた意識改革は出てくるかもしれない。