投稿日: Dec 15, 2011 11:59:57 PM
ビジネスの全体感を把握したい方へ
デジタルとネットの時代において出版の復権というか、再定義をテーマにしたサイト ebook2forum が面白い。特に Weekly Magazine の方は2011年のアメリカにおけるeBookの躍進振りを日本語で伝える貴重な媒体になっている。当然ながら出版関係者が多く読んでいるはずだが、少なくともこの1年半ほどの間で出版社側に呼応する動きは見られないで、護送船団時代と変わらないように思える。過去20年ほどの間はIT業界が出版社に電子出版のさまざまな提案を行ってきて、電子辞書のように新たな分野を築いた例もあるが、その延長上には電子書籍はなく、iTuneやKindleのようなコンテンツ配信の仕組みの上に書籍コンテンツを扱う方向にある。残念ながら過去に出版界のパートナーであった電気屋さんはこの世界には疎く、出版界の意識変革のお手伝いはできなかったようだ。
つまり紙媒体からデジタルコンテンツビジネスに移行するのに重要なものは、デバイスや表示技術やWebサイトとか課金システムなど目に見える要素のほかにある。紙の出版なら取次・書店といったパートナーがいて回っていた仕組みをデジタルの時代にどう考えるのかという点である。これは「取り次ぎ=配信会社」「書店=サイト」という単純なものではない。だいたいネット上ではこういった機能は渾然一体となっていて、リアルワールドの垂直・水平という切り方自体があてはまらない。従ってこの仕組みは独自に開発すべきもので、あらゆる本を扱う大出版社にははなはだ難しい課題だが、専門書出版社ではかえってコンテンツに相応しい売り方は考えやすいかもしれない。
例えば大学生が対象の出版物なら大学のイントラネットに、企業内教育なら企業のイントラネット上に教材コンテンツを提供して構内のWiFiで利用してもらうなどが考えられる。これらもサーバで利用者管理をして利用度数に応じた課金をするとか、引用・カット&ペーストの範囲など、交渉に応じることで新たな市場が形成できる。小テストや評価制度とのリンクもパートナーと一緒に開発でき、いろいろな応用展開が図れるだろう。
記事『日本のメディアビジネスは本当にダメなのか?』『デジタルの落とし穴 : 安直』では、出版物の作り過ぎのことに触れたが、一過性の暴走時期をはずして考えると出版も音楽も安定した需要があり、ニーズに応えるようにコンテンツ提供側が対応を迫られているのだとうい意識を持つ必要がある。出版を続ける意思があるならば、今後に需給がバランスするビジネスのやり方に着地するために技術トレンドに合わせていく必要がある。話題になったソーシャルリーディングとかバズワードにはまり込んで全体が見えなくなることが一番恐ろしい。技術に引っ張られて未来を考える必要はなく、バブルを修復してコンテンツビジネスのエコシステムを復元するという考えをするべきだろう。