投稿日: Mar 03, 2012 1:13:51 AM
出版囲い込み機構ができつつあると思う方へ
かつてニューメディアが盛り上がった背景には、情報化に伴う新たな産業が育つとすると、それはどこの省庁の管轄になるのかという問題があった。通信衛星と放送衛星が別々に打ち上げられていたように、各省庁の施策と絡んでニューメディア振興がされた。一見すると賑やかに世の中が動いているように見えても、実際は無駄なことをさんざんしていたのである。これでTVが多チャンネル化してどんなよいことがあったのだろうか?ネットでも多チャンネルのVODやコンテンツ配信が行われ、またデジタル放送など、通信と放送の融合が課題になっている時に、過去の亡霊のような通信と放送の許認可・監督の力関係などどうでもよいではないか。
しかし補助金などはまだ各省庁ごとに動いている。PAGE2010を開催する前に経産省の通称コンテンツ課(商務情報政策局文化情報関連産業課)に挨拶に行った際に、課の方からこれから電子書籍に本腰を入れるような話があった。当時から三省合同云々という動きはあったが、その裏で三省競合というのもチラついているのである。近年羽振りがよかったのはケータイの世界で、iMode課金は年間2800億円ほどになり、一方で紙の出版が下降しているという対照もあって、有料デジタルコンテンツは各省庁綱引きの対象になっただろう。今電子書籍650億円はまだものの数ではなく、今後有料デジタルコンテンツが大幅に増えるとなると、それらの売り上げは通信の中に入るのか、サービスなのか管轄官庁での思惑はぶつかりあう。
もともと印刷も出版もビジネスとしては経産省の紙業印刷業課の管轄であったが、これが上記のコンテンツという括りの産業になってからは、紙製品以外はコンテンツが主役になって、今まで印刷業向けの施策をしていたのが、電子書籍をきっかけとして出版業向けの施策に変わりつつある。それが電子書籍関係に予算がつく理由であるし、これによって従来は経産省に見向きもしなかった出版界とよい関係を作りたいという意図がみられる。しかしこういった世界が日本独自のルールを作り出して世界的な競争力を失うガラパゴス状態の元でもあるので、自分の精神衛生上も関わりたくはない。長期的 な視点で経営をするならば、変化する技術や力関係に左右されるところは肩入れしすぎないようにして、自社の中期的テーマに合わせて柔軟に付き合っていくのがよいはずだ。
電子書籍流通に関しては従来の紙の取次ぎがうまく業態転換できないので、新たな機構を作ろうとしているが、そのモデル化と立ち上げに予算をつけることができても、実際に黒船と戦っていく部隊が見えてきていない。GoogleやAmazonもそうだが、彼らは競争に勝って生き残っている人たちで、利権や談合で有利な位置にいるわけではない。黒船勢と戦うには1000人の秀才よりも1人の天才が必要である。こういった面の競争力をどうするのか、またどのように手を組むのかという戦略のできる人の方が、何十億の予算よりもさし迫った課題であろう。