投稿日: Jul 07, 2012 1:28:44 AM
新しい出版の定義を探している人へ
電子出版EXPOの期間中の7月6日(金)に、関係者はビッグサイト釘付けで申し訳なかったが、渋谷で『グローバリゼーションを目指す世界の出版動向と日本 – フランクフルト・ブックフェアのボース総裁を迎えて』を開催した。ユンゲルボース氏は Ebook2.0 Forumの鎌田氏がつれてこられた方で、この何年間か東京のブックフェアの際に来日して日本の関係者とコンタクトを増やす活動をされている。これはブックフェアという国際的な版権の売買というビジネスが急速に大きく転換しかかっていることに対する「次の手」を練っているからだと思える。つまり出版ビジネスというのは人間の歴史という点でも世界的にも、未曾有のすごく大きな転機を迎えつつあるという認識である。読書端末がどうとか、Amazonがどうしたというような枝葉抹消な話題ではなく、出版関係者が自分たちの力で新しいビジネス基盤としての関係作りをするべきだという話をされた。
デジタルメディアは出版物以外にもいろいろなものがあるが、いずれもマルチメディア化してくると似たようなものになる。しかし制作から流通のバリューチェーンであれ、取り扱う情報の多様さであれ、利用されるシーンであれ、権利問題であれ、出版はそれらを上手に扱う伝統があるので、出版以外のところが扱うデジタルメディアよりもうまくビジネスができるはずだという。だからブックフェアというのもそれに対応したものにするべく、すでに動画・ゲームからストーリー・アイディアの売買の場とか、また動画・ゲームの世界に人たちとの交流の場など、フランクフルトブックフェアがマルチメディアのB2Bフェアを指向している話は大変刺激的であったし、日本の出版社の姿勢とはあまりにも落差がありすぎで、なるほどビッグサイトでの講演とかディスカッションをしなかったのは、そういう理由だったのかと納得もした。
また日本の動きとしては、記事『視点を少し先に移すと…』でKoboはカナダの会社のままで日本語コンテンツを日本に提供することに触れたが、楽天・Koboの象徴的な意味を引き合いに出して、ネットの時代においては国境が消滅することによる市場の巨大化とそこで起こることの話をされた。そもそも文化とは言葉の壁によって作り出されたものだから、出版のような文化的なビジネスはこの壁に守られていたので、ブックフェアのような国際的な版権売買や翻訳出版が成り立っていた。しかしeBookがネットで流通する時代では年に1回のブックフェアで交渉してボチボチ出版するようなビジネスサイクルではなくなってしまう。とはいえ急に世界がひとつになってしまうのではなく、逆に今度はローカライズとかカスタマイズというのが出版の仕事になるという。その例として、教育や子供向けの話をされた。
グーテンベルグの活版印刷によりドイツで出版が盛んになったのがルネッサンス期で、その後何十年も経たない間にヨーロッパ全体にその技術と出版活動は広がっていった。今はアメリカがITで先行してKindleが出版界を席巻しそうに言われるが、さすがにボース氏はドイツ人だけあって、そんなことはものともしないで、再びドイツからデジタルの出版革命を興そうとしているかのように見える。近年稀に聞くスケールの大きい、希望の持てる話で、デジタル出版のロードマップが描きやすくなった気がする。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催