投稿日: Sep 10, 2012 12:6:19 AM
何かが欠けていると思う方へ
日本でCD売上げのランキング上位をAKB48とか少数のアーチストが占めてしまう現象は、あまり多様性を重視しない右へならへの日本人の国民性をあらわしているという見方もあるが、CD売上げが音楽嗜好の実態をあらわさなくなってしまったともいえる。いつの時代もヒット曲が市場の主要部分を占めることには変わりはないだろうが、むしろそれ以外のところがファンの底辺を広げ厚くするものとして重要である。音楽産業が人気アーチストだけに依存するというのは、経営的に自らの首を絞めることになるはずなのだが。
ネットでのダウンロード販売だけでなく、いわゆる海賊行為のファイル交換とか、私的複製に関連する個人間のCDの貸し借り、中古市場まで入れて嗜好のランキングをとるといったいどのようになるのだろうか?おそらくAKB48はトップどれだけのランク外になるのではないだろうか。すでにデジタル音楽の利用という店では、個人が何GB以上も音楽データを持っている状況からすると、無料だからといってガンガンダウンロードとかコピーをしまくる人はほとんどいないだろう。つまりタダでも聞かれない音楽がどんどん増えていると思われる。
もし出版デジタル機構が活動を続けて、100万点の電子書籍が廉価に入手できるようになったとしても同様で、それだけで読者が増えることは無い。本を読みたい人は図書館に行けばいくらでもタダで読めるのだから、電子書籍のお世話にならなければならない理由は無い。さらに日本の書籍の場合は毎日200-300点が追加され累積的に読む対象は増え続けるので、紙と電子と新刊と中古と販売と貸与のすべてを含んだ読書環境のことを考えるマーケティングが必要になる。オープン・パブリッシング・フォーラム はそのような次段階のビジネスを描く目的があるので、今すぐの販促にはつながりにくいかと思うが、こういったテーマを一緒に考える人を求めている。
おそらく音楽も本も、その他のコンテンツも、ネット経由で幾らでも手に入るようになって、いわゆるキュレータ・コンシェルジュ・ナビゲータという「生き字引」サービスとかお勧めサービスが求められているのだが、それはかつては雑誌の果たしていた役割であったと考えられる。つまりかつての出版や音楽の発達はそれらを扱うジャーナリズムの発達をも促し、両者が良い関係でお互いにプラスに働いて市場を拡大してきたと思われる。それに対して現状の日本は紹介する雑誌もコンテンツビジネスも負のスパイラスになって、一部の広告代理店がマーケティングするようなコンテンツだけが目立つようになったのだろう。
これらの分野で負のスパイラルが起ったのは、両者の関係がカネでしかつながらなくなったからで、広告の切れ目が縁の切れ目になった。つまり雑誌の方からすると広告のタシにならないような記事が減っていき、コンテンツビジネスからすると雑誌の読者数を考えると広告代は高すぎるということだろう。両者の関係はカネ以外にもっとテーマ性で共通のミッションを持つべきで、特定分野にフォーカスしてアーチストの育成からマーケティング、ファンの育成・交流などコンテンツビジネスのバリューチェーン全体に対して協力し合うような関係にならないと、何か面白いことがそこにありそうだと人々は思わないだろう。だからロングテールもうまくハンドリングしないとバリューチェーンは強化できない。
そうすると現在必要なのはコンテンツを紹介するビジネスをもっと活性化させることであるのだが、Blogに音楽のクリップを貼り付けたりYouTubeにアップすることなどを規制してしまう逆の状況が進行している。記事『作品なのか? 商品なのか?』では、アメリカでは権利者がYouTube動画を削除するよりはマーケティング的に利用する方が主であることを書いたが、一部の有名人以外の大多数のコンテンツの権利者は「生き字引」サービスとかお勧めサービスに活躍してもらわないと、自分が埋もれてしまう状況にあることを真剣に考えなければならないと思う。