投稿日: Apr 04, 2012 12:9:9 AM
出版のバリューチェーンを考える方へ
仮称出版デジタル機構が株式会社でパブリッジになって、「誰得か」という議論がある。誰の得にもならないと思うのだが、いくつか気になるところがある。これを頼りにするような人に出版が担えるのかということである。紙の出版ビジネスの時から編集は雑務の塊だった。編集者は何をしなくても良いということはなかったと思う。著者が書けなかったところを代筆して、著者に没にされても、それがきっかけで著者がスランプを抜け出してくれればいいとか、本の売れ行きを気にして書店を回り、本の位置を並べ替える人も居た。要するに編集者が全精力を注ぐのが出版だったのではなかったか。
ニュースリリースの取り扱われ方を見ても、パブリッジのウリ文句は潤沢な資金を回してもらえること以外には見当たらない。電子書籍を売る努力は個別にしろという。補助金・助成金を受ける事業というのは特定の人だけの利益にならないように、玉虫色のビジョンを描きがちである。東関東大震災支援とか、電子書籍100万点とか、1人の出版社でも電子書籍がだせるとか、出版デジタル機構まわりでいろいろ言われていて、それらひとつひとつに言及する気はないが、ではこの事業者の腹の中では何が狙いなのかわからないのは困ったものだ。とてもこれでAmazonに対抗はできないし、Amazon対応をするのにここで一元的に扱うわけにもいかないだろう。紙の出版の取次ぎのような中心的な位置にはいかないだろう。つまり集めてもらった金を分配すること以外に成果の目論見が見えない。
パブリッジの特徴は要するに護送船団であって、農協のように「みんなこの方法でやっているから、この船に乗ると安心ですよ」というのを官の後押しを得て作ったということだろう。そういう意味では「みんな横並びで、抜け駆けなしの約束」という非常に日本的な弱者救済のビジネススキームで、日本人には参加しやすいものであると思う。またとりあえず付き合っておいて損はないのだろう。しかし得もあまりない。少なくとも制作に関して独自の競争力をつけることはできなくなる。しかし出版というビジネスはそんな受身なものなのだろうか?
紙の出版の場合は紙面という静的なアウトプットが対象なので制作方法も割りとまとまりやすく、現に最終的にPDFにする、と決められるのだが、eBookは今後のHTML5の応用の広がりを考えても、オーサリングもアウトプットも今からいろんな可能性が広がる分野である。これは何も奇をてらったマルチメディアオーサリングがされるという意味ではなく、もっと読書がスムースに行なえるための仕掛けもいろいろ出てくる。また出版ビジネスそのものも変わる。例えば日本語の翻訳本を出すのに日本の出版社を経由する必要はなくなり、海外出版社がどこかに翻訳を頼めば自分でできることになる。これは逆もしかりで、他にもいろいろなことがeBookで起こるはずである。
パブリッジは1人の出版社でも電子書籍が出せるようにというが、1人の出版社とは結局は編集者個人でも本を出せるということで、脱既存出版社を掲げているのと同じことである。であったら私は大賛成で、eBookになって出版はますます編集者が全精力を注ぐ甲斐のある仕事になるように、チャレンジャーのためのプラットフォームになってもらいたい。