投稿日: Jun 15, 2012 2:3:25 AM
電子書籍の先が見えない方へ
日本の電子書籍がなぜブレイクしないのかの話の中で、それは書店に行った方が楽しいからだ、という反応がある。紙の本を設計している人と書店を設計している人は別だから、書店の楽しさは出版のビジネスの範囲外と思うかもしれないが、書店がなければ出版は発展しなかったわけで、双方のよい関係、あるいはそれに加えて取次ぎの配本の利便性などがバリューチェーンとしてよく機能したのが1990年代までであった。長引く日本の出版不況というのは、紙メディア自身の問題とか本の企画とかよりも出版ビジネス全体を貫くバリューチェーンの損傷によって起こっているもので、すでに機能不全になっている今までのもたれあいの中では解決しない問題であると考えたほうがよい。
過去のバリューの典型が書店であって、人が本屋にぶらぶら入るということ自体が大きなサービスになっていた。読者は意識していないのかもしれないが、そもそも本屋に行こうという気がすることが、そこで楽しさとかメリットを与えてくれるサービスを期待しているから起こることである。そういったワクワク感を電子書籍の流通でも作り出せない限り、コンテンツを100万点揃えようとも人いきれはでてこない。つまり今の日本の電子書店に賑わっている感じは期待できない。リアルの本屋といえば、客が手に取る本の9割以上は立ち読みで、ごく一部が売れるだけである。本が指名買いであるならば店舗はいらず、オンラインの方が便利である。
人が本屋でぶらぶらしていて何らかの発見があることの意味は大きいのだが、そこの費用を出版社は直接的には負担していないし、直接介入もできない。しかし電子書籍をネット上で販売するとなると、Amazonのような流通プラットフォームを使うのでなければ、どのような「売り場」にするかを自分で設計しなければならない。日本にも電子書店は数多くあっても、リアルな書店を凌ぐようなものはまだないからである。これはオンライン書店をどうにかすればよいのではなく、オンライン上でどのように読者と出会うかというのは、紙の本とは全く桁違いに多様なものが考えられるからである。つまりビジネスとしては白紙というか丸裸なのがデジタルメディアである。
新聞は大きな紙に字や写真を詰め込んだものではなく、朝起きたら郵便受けに入っているとか、駅を通りがかりに手に取ることができるなど、コンテンツと販売面でのサービスがセットになったビジネスであることを、記事『サービス指向の出版とは』で書いたが、デジタルメディアは「先にコンテンツありき」ではなくサービスの発明や読者との出会う機会を作り、読者を誘導しなければならない。パブリッシングの新しいバリューチェーンの中で、なかなか考えにくい点、またもっとも欠けている点を明らかにして、新しいパートナーとどうやってそこを埋めていくのか、という地道な努力が必要なのである。
デジタルで出版を再構築するという主旨で、オープン・パブリッシング・フォーラムをはじめる準備をしています。その第1弾として下記のセミナーを開催します。
Ebook2.0 Forumと共同開催
2012年6月20日(水)『出版ビジネスをサービス指向で再構築する』
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