投稿日: Oct 22, 2014 1:54:40 AM
出版は東京の地場産業であるので、メディア関係の仕事をしていると出版関係者に多く出くわすのだが、他メディアとは距離があるというか、独特の雰囲気をもつとか、独特の常識があるように思える。出版人は今の企画編集から流通までの仕組みを何も疑わない人が多いのだろうが、やはり時代とのギャップは深まっていくと思う。
まず最初に何かテーマが思い浮かんだ時に紙媒体しか企画しないというのが珍しい。例えば「震災復興に古老の知恵を」というテーマを思いついたとして、今日フツーに考えて行動すれば最初に取材とかがあるわけだから、動画をとるのが普通である。また資料を集めれば展示イベントもできるし、ネットでの公開もある。リリースを作ってメディア向けに発信することもされる。そしてそれらを総合してドキュメンタリーにするとか紙の本にすることになろう。
最後の本屋も紙の本しか売らない店舗というのは商店街の中では異質の存在である。戦後しばらくは卵屋とか乾物屋のように特定の仕入れ先のものだけを売る店舗があったが、そういう小売形態はなくなり、ツタヤとかBookOffのように消費者が必要とする似たジャンルの商品を取りそろえるようになった。そういうことができずに消滅したのがレコード屋だった。これも再販制度の対象のビジネスだった。紙の本屋が生き残っているのが不思議なくらいだ。
企画、執筆、編集という人的作業も、関わる人の権利が明確ではない。プロデューサー・オーサー・ディレクター・ラインスタッフ・ポストプロ、という区分けを明確にした方がいいのではないかと思う。印刷業界と版面権がどうとか著作隣接権がどうとか個別に話す前に、バリューチェーン全体を通して見直した方がよい。何らかの大原則を作ったうえで利益の配分方法を考えないと、この利益の出ない時代にシステム全体が硬直化してしまうだろう。
印刷も下請けいじめのようなことをしていると、利益が出ないで廃業する特定の工程が発生して、バリューチェーン・サプライチェーンの中でボトルネックができてしまい、外注先が見つけにくくなるとか、外注先のキャパシティが不足してビジネス機会を遺失してしまうことが起きている。
DTPなどもそう遠くはないうちに出来る人が減ってボトルネックになる可能性がある。専門職の場合に儲からなくて食っていけなくなる分野では職業教育が出来ずに、後継者が絶たれるからである。
紙を使わないデジタルメディアは今のところは産業としては脆弱ではあるが、冒頭の取材や資料公開や案内などをネットを使っていく習慣がついてくるので、時間とともに紙の出版よりも土台のコンテンツ力が高まる可能性があり、そういった底力がついた時に紙の出版よりも優れた人材・サービス・モノが出てくるようになるのではないかと思う。
日本の書籍の発行点数はすこぶる多く、その陰にはコンテンツの熟成過程をはしょって、紙の本を粗製乱造的に乱発するところもあるわけで、その延長上にデジタル出版は花咲かないだろう。
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