投稿日: Feb 08, 2012 12:46:5 AM
業界のボーダーレスを感じる方へ
ちょっと事情があってJFPIの「SMARTRIX2020 スマート社会に貢献する印刷産業」という報告書に目を通さなければならないのだが、気が重い。25年前にJFPI設立時に同じようなプロジェクトがあって関わっていたのだが、それと基本的には大差ない。その当時はデジタル化ネット化で「これからこうなるぞ」といっていたのが「もうここまで来てしまった」という内容である。つまりその間に同じような業界ビジョンが繰り返し作られていたのに、なかなか業界全体としてはそういう方向に動けなかったことは、今回も置き去りにされている。そのまま、また「これからこうなるぞ」といってよいものなのだろうか。
当然ながら印刷産業の中心にいる大手印刷会社は、この間に会社の組織が大きく組み替えられてネットワーク時代もソフトの時代も対応がされた。だから「こうすればできる」は実証されたともいえる。マクロの動向はすでに語られているので、その中で自社のポジショニングとか経営資源の棚卸しと組み換えで、新たな戦闘体制を作れるかどうか、というミクロなところにしか知恵の使いようはないのだ。実際に印刷減に対してソフト化サービス化がどのように成り立つのかについては、この25年で大きく成長した企業の知恵を見ることで参考になることは多い。
しかしさらに今後10年先を考えるとなると、過去25年の成功者が必ずしも生き残れるとは限らない。実はそこのほうが大きな問題があるのだ。記事『新聞をとりまくソーシャルビジネス』では、以前は結婚して世帯を構成して子供が学校に行くようになると親も新聞を購読したことを書いたが、今の30歳前後の人のメディアに関する行動が変化すると、新聞の購読は過去のようにはいかない。つまり30歳前後の人というのはモノ心つく頃から身近にデジタルガジェットがあり、その世代がニコニコ動画などを押し上げていて、それが既存メディアの下降に拍車をかけると考えられるからでである。
だからといってデジタルメディアに投資しても、同じコンテンツでもデジタルは低コストで紙ほどの売り上げには届かず、しかも若年層は高齢者の人口の半分くらいしかいないために、従来のメディア企業の経営規模を支えることはできない。だから従来のメディア制作という枠からはみ出た戦略を作らないと、拍車のかかる既存メディアの下降にあわせて自社をシュリンクさせなければならない。印刷業界の話に戻ると、現実的には効率的な経営縮小によって残った人がハッピーに暮らすという選択肢は重要である。しかしJFPIのようなお役所の片棒を担いでるところでは、残存者利益のようなミクロで実質的な話はでてこない。
従来のメディア制作という枠からはみだすことは重要なのだが、これはもはや印刷産業でなくなってしまうので、JFPIの報告書では取り上げられないテーマなのであろう。