投稿日: May 11, 2015 1:15:46 AM
カラー製版がデジタルになって画面を見ながらレタッチや集版ができるようになった1980年代には、億円というオーダーの「トータルスキャナ」(和製英語)が売られていたが、2000年頃にはこれらの機械は用済みとなった。1990年ごろに登場したAdobePhotoshop に置き換わってしまったのである。Photoshop が成功した理由は技術的に優れた点がいろいろあるのだが、それ以上にマイクロエレクトロニクスの急な進歩がトータルスキャナを滅ぼしPhotoshopの追い風になったといえる。
なにしろサイテックスの初期のレタッチ画面ではカラー画像は256色のインデックスカラーであったくらいに、メモリというのは使える容量が制限されていた。これでもレタッチという点では美術複製の仕事をしていたのだし、それほど差支えがあったようにも思わなかった。制作環境としてはディスクパックも300MB単位で、手で取り換えをしなければならなかったし、とてもディスクパックをたくさん買うわけにはいかなかった。その頃すでにアメリカの中古自動車情報誌は写真のデータベースを作っていたが、記録媒体はテープであった。そこを見学に行った時に、ジュークボックスのような仕組みでテープが入れ替わる機械があったのを見た。
当然今ならどんなショボいパソコンでもハードウェアはサイテックス以上である。いやデジタルカメラ自体がサイエックス以上であるともいえる。製版のカラースキャナは色の信号を1色あたり10~12ビットでデジタル化していたが、今のデジタルカメラのイメージセンサもそれくらいかそれ以上のダイナミックレンジをもっている。ただし恐らく真空管のフォトマルに比べて半導体のイメージセンサは固有ノイズが多いはずだから、何らかの信号処理をしてノイズ分を除去しないとダイナミックレンジは稼げない。ここら辺はデジタルカメラ内部の専用チップの機能なので、外部からはおぼろげに推測するしかない。
ともかくデジカメのrawデータというレベルではどんどんフォトマルに近づいているだろうと推測する。それをPhotoshopとかLightroomで直接扱えるのだから、フィルム時代とは段違いのカラー再現性を得られたことになる。CPUも64bit時代なので各色16bitでも実用的な速度で加工できる。とはいってもjpegでカラーマネジメントされたファイルを扱っている人が、ホワイトバランス位は自分で取らなけばならないようなカラーマネジメントの範囲外の各社rawデータを触るというのは難しいだろう。rawデータを扱うことを「現像」に譬えたのはうまい言い方だと思うが、だいたい今の人は「現像」などしたことがないだろうから、そこにどんなスキルが必要かがわからないだろう。
まだ12~16ビットカラーの領域はやるべき仕事が多くあるように思える。
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