投稿日: Jan 16, 2011 10:27:5 PM
デジタルメディアで業界が変わると信じる方へ
日本の電子書籍元年で萌芽的に見られた現象として、著者・作家が出版社から自立するような動きとか発言があった。とはいってもすぐに自立して食っていけるはずはなく、次第に出版業界の中にそのようなことを可能にするビジネスの仕組みができていくであろうし、それは電子書籍が大きな契機になるだろう。それはどのようなものかを考えた『作品-出版-読者』では出版社主導の出版に代えて、著者が主体的に出版に関わって、それのビジネス化を手伝うマネジメントやプロデュースをするところが出現する姿を描いた。既存の業界の枠をはずして、作者と読者がどのような関係になるとよいのかを考えるべきである。
デジタルメディアとネットワークの時代にふさわしい出版のあり方を考えると、著者は自主出版を契機に読者を獲得して、その後の創作活動などの土台に出来る。作品を媒介として何らかのSNS的緩いコミュニティが成長する中から 出版社に委託して世に出る本もあるだろうし、電子書籍・紙の本以外のメディアやイベントをプロデュースしていろいろなビジネスにしていくだろう。記事『メディア事業の業態変革はマーケティングから』では、本屋大賞2010年を獲った "天地明察"の作家冲方丁氏のようなマルチクリエータのことを書いたが、著者・作家を中心にしたビジネスのあり方に変えた方がよい点がある。
それは音楽におけるアーチストとプロダクションの関係にも似ているが、電子書籍よりも音楽の世界の方がネット配信では先行していて、業界が変化しつつある。かつてはDestTopMusicという言い方で簡易音楽編集があったが、今は高価なスタジオや機材を借りなくてもプロ並みの録音が可能になり、レコード会社やプロダクション抜きで自分たちで「原盤」が作れるようになって、ネット配信くらいなら会社は必要ないほどになった。しかしそれで「丸儲け」にはならないのは、権利問題の処理や広報、コンサート準備、などビジネスには多くの仕事をミュージシャンが一人でするわけにはいかないからである。
欧米ではミュージシャンはマネージャと契約して、マネージャがそれぞれ専門の外注を使って処理しているのを、日本ではプロダクションやレコード会社が行ってきた。マネージャですら会社があてがってくれた人がついて、月給をもらうミュージシャンもいる。こういったことがすべてなくなるとはいわないが、それでは思い道理の活動ができないと感じるミュージシャンにとっては、自分でフリーのマネージャと契約して、自主制作をレコード会社に売り込んだり、ライブ・ネット配信を含めて自主的な運営が可能になりつつある。つまり権利者が主人公でマネージャに報酬を払うスタイルは、音楽の方が先に進んでいて、それは本・ゲームなど他の表現にも次第に一般的な方法になっていくであろう。
しかし嵐やAKB48のようなマスメディアと一体となったものはそうはなりにくく、ニッチな専門分野や坂本龍一のようなミュージシャンの主体性の強い分野から、アーチストの会社依存は減っていくように、今の専門出版社がプロデューサ化に進むほうが自然な流れに思われる。だから著作者と組んでどのようにビジネスを盛り上げていったらよいかを考える人にとっては、デジタルコンテンツの時代は多くの可能性があることになる。