投稿日: Jun 22, 2012 1:30:10 AM
新しい関係作りを模索している方へ
Ebook2.0 Forumと共同開催を予定しているオープン・パブリッシング・フォーラムのために6月20日(水)にオリエンテーションを行って報告記事にしているが、あまり研究会自身の説明をする時間はなかったので、研究会の性格は鎌田氏のスライドを見ていただくしかない。過去30年で一挙にビジネスの世界の情報処理はデジタル化したわけだが、その間のIT産業ソフトウェア産業の経営は紆余曲折し、順風満帆の会社はなかった。結果的にはMicrosoftやAppleがうまくやったように思われがちだが、創業者が人一倍危機感が強かったから、変化を先取りして自分を変えて乗り切れた面がある。つまり過去30年でもっとも不安定な業種が、もっとも伸びたIT産業であったといえるだろう。
そして一般企業のビジネスがIT化して、経営にIT活用という要素が強まれば強まるほど、一般企業自身も伸びるチャンスはあるが不安定になるに違いない。だからITに期待感を寄せるだけでなく、ビジネスの方法や手段に経営理念が揺れ動かされない何かが重要になるともいえる。6月20日の絵本アプリ「こえほん」についても、技術的には可能性はいくらでもいえるものの、それらばかりを追いかけるのではなく、他社にはないものにも基盤を置いている。こういう基盤が大きな慣性になるので、好ましいという面と、古い産業のように慣性が大きすぎて新しいことや環境変化への追随ができにくくなるという面がある。
IT系から来たコンテンツビジネスは一般に慣性となる基盤が弱く、逆に既存の出版業のようなところはもっと流動的な面を増やさなければならないのだが、この両極端の両者のシナジーは過去の電子出版の立ち上げの苦労を見てもわかるように、なかなか自然には形成できなかった。今ではeBookを避けて通れないと感じている出版社も出てきていて、そうなるとこの問題を解決しないと前には進めない。eBookなり電子出版で大きく前進したいならば、IT産業と同じくらいの危機感で不安定さを覚悟した経営をしなければならない。
しかしすべてがそうでなければやっていけないのではなく、ある程度慣性のある基盤をおいて、パートナーとよい関係を築きながらパブリッシングをする道は有り得ると思う。それが「電子出版再構築オープン・パブリッシング・フォーラム」の狙いである。パートナーとの関係というのは、紙の出版の場合は、製紙会社からの仕入れ、編集関連業務、制作、印刷、製本、取次と、水平分業の積み重ねでやってきた。水平分業というのは印刷を大日本印刷に頼んでも凸版印刷に頼んでも同じように製品が出来るし、いつでも切り替えがきくという意味である。ところが電子書籍ではかなり垂直統合的になってビジネス上の縛りが多くなってしまう。出版デジタル機構はなんとか水平分業に戻そうという試みのように思える。それも無理があって、IT産業の試行や経験を踏まえた、関係作りが必要になる。その全体の見取り図を示すことが出来ればよいと思う。
7月6日(金)の特別セミナー『グローバリゼーションを目指す世界の出版動向と日本 – フランクフルト・ブックフェアのボース総裁を迎えて』では、ディスカッションにおいてそこらへんも聞いてみたいと思う。
関連情報
オープン・パブリッシング・フォーラム<特別セミナー> 7月6日(金)15:00~16:30 (90分)