投稿日: May 19, 2012 1:0:21 AM
モノの飽和を乗り越えたい方へ
日本人に革新的な製品やサービスをする能力が無くなっているとは思えないのは、昔から革新的な開発は大きな苦労が伴っていて、奇跡的に潰されずに世に出ることができた例が多いからである。だから種としてはあるはずの革新的な開発を如何に育て上げるかというのが日本の課題なのだろうと思う。よく成功例として引き合いに出されるSONYのWalkmanも、録音が不可能なテープレコーダーというのは社内で受け入れられなかったのに、やってみようというリーダーシップがあったから製品になった。しかしそれだけではなく、やはりヘッドホンにもちゃんと革新があったから成功したのだと思う。Walkman以降に定着したのは音楽は小さなヘッドホンやイヤホンで聴くことが何の抵抗もなくなったことで、これはステレオラジカセやCDコンポなどの市場も小さくしてしまった革命であった。
Walkman以前のラジオのイヤホンは電磁石に薄鉄板を組み合わせたもので音が悪く、ヘッドホンもラジオのスピーカーのようなものだったのが、SONYは音響特性の優れたヘッドホンやイヤホンを作れたから、ラジカセ以上の音楽鑑賞が可能な携帯音楽プレーヤーが実現したし広まった。しかしWalkman本体の方がインパクトがあったので、韓国でMPmanと称するMP2プレーヤー(後にmp3)が登場し、これがiPodの源流である。当時MPmanは日本では知財権グレイということで発売されなかったのだが、私は応援するつもりでアメリカで買って使っていた。しかし音は悪く(おそらくデコードも、アンプも、イヤホンも)、結局つぶれてしまい、ハードを供給していたNextwayという韓国の会社に引き継がれた。つまりMPmanはWalkmanが切り開いたライフスタイルに便乗する形でビジネスを始めたが、Appleのブランドや品質基準の前には対抗できる製品を作れなかった。
音の良し悪しだけが売れ筋を決めるものではないが、そこで明らかに劣ってしまっては音響機器としては競争に入っていけなくなる。日本はAudioVisualに関するクオリティは競争力があるのだから、新しいライフスタイルを背景に大胆なチャレンジをすればやっていける道はあると思う。残念なのはeBook・電子書籍の取り組みが進まないように、デジタルやネットを使う新しいライフスタイルになじんでいない人たちがビジネスをしている限り、何のブレイクも期待できないことである。
今日でWalkmanを再評価するとしたら、それはマスマーケティングに基づくものではないことで、もし事前アンケートで「録音はあったほうがいいでしょうか?」と聞いたら、あった方がいいという答えになるはずだが、そういう消費者の要望には耳を貸さずに新たなライフスタイルを発明した点がすばらしい。これはSteve Jobs が共感した点で、実は日本でもそれに類したことは随分多く手がけてきた。日本の経営層がデジタルやネットのことは疎いとしても、ライフスタイルの発明を応援するようになってもらいたい。