投稿日: Jan 22, 2015 1:9:14 AM
持ち物のかたずけという意味も込めて、78回転のSP盤のデジタル化もぼちぼちやっているのだが、これまで万という単位で行ってきた45回転盤のデジタル化に比べての何十倍の労力がかかる。45回転盤は1949年から1990年代くらいまでの40年ほど供給され、実際に量的に主流だった時代は1950年代中庸から1980年くらいまでの25年間ぐらいであった。この間の大きな技術的な変化はモノラルからステレオへというものだったが、録音特性とかアンプ・スピーカーなど音響機器は大きくは変化していない。
45回転盤やLPなどのビニールレコードに関しては、特に針とかカートリッジのようにレコードと直接接するところは変化が無く、1960頃の名器は1980年でも現役であった。つまり技術の規格上は安定していたのでレコードから録音したデジタルデータをリマスターするやり方も一定でOKであった。しかし78回転盤はアコースティック吹き込みの時代から1950年代のHiFiの時代まで、いろんな技術の変遷があったので、再生技術が一定ではないのである。
また78回転盤はすり減りやすいために、摩耗で音質が変わってしまう。AB両面が同じ時に録音されたとしても、劣化の程度が異なるとリマスターのやり方も変えなければならないし、結果として同じ人が歌っているようには聞こえないようになってしまうこともある。
素材の問題もある。私は1920年代までの78回転盤はあまり数を持っておらず、少なくとも録音はマイクによる電気仕掛けのものがリマスターの対象ではある。しかしレコード盤の素材は1950年ころ以前と以降で変わっていて、当然ながら後のものほどよい。この良しあしとは音楽が始まる直前の無音のところでどれだけのノイズがあるのかという問題で、実際にはレコード1枚1枚を処理してみて盤質を判断して作業しなければならなくなる。
もうひとつ素材と関係して厄介なのがイコライザーのRIAAである。一般にはRIAA特性はビニールレコード時代のもので、78回転盤の頃はまだ統一した録音特性カーブというのはなく、各社違うとか時代で変わるなど何通りかのイコライザーカーブから選択して再生することになっている。しかしRCAやコロンビアといった大メーカーではないマイナーなインディーズがどのような録音特性を採用していたのかわからず、再生を聞きながらイコライザーを変えていくということになる。
これは音楽が「きっとこのように演奏されていたに違いない」という、「それらしく」鳴るようにということと、無音時のノイズをどこまで減衰させるのが妥当かということと関連している。減衰させすぎると音楽を削ぎ落としていることになるからだ。後にLPなどで再発売されている曲ならばそれらを参考にリマスターできるが、そもそも再発売されなかったマイナーな曲は勘に頼るしかない。
実際に再生作業をしていると、1950年代の後半の78回転盤はRIAAで再生しても聴いておかしくないものがある。その当時発売されていた再生装置である電蓄をみると、次の写真のようなカートリッジがターンオーバー式で78回転と33.45回転盤用の針を切り替えるものが多い。
この場合は回転数は別途手で切り替えるのだが、イコライザーは切り替えてはおらず、クリスタルとかセラミックカートリッジは無処理でRIAAのイコライザーがかかることになっているからOKであると説明される。ということは録音時は78回転盤もRIAAを採用していたものがかなりあったのではないかと思う。
マニア向けのオーディオ誌では78回転盤の再生用切替式イコライザーが紹介されているが、それは放送局が使っていたMCカートリッジなどを使い、しかも録音特性が判明している大手のレコードの場合にしか必要が無いと思う。日本の場合は電蓄のようなアンティークオーディオを聞く機会がほとんどなくなったので、自分の耳で確かめるよりもオーディオ誌の情報に頼りがちだが、この類の情報は相当認識違いとか見当違いなどのズレがあると思う。
私の持っているものはジュークボックスでかかっていたような音楽なので、カートリッジはセラミックが主体であっただろうし、アンプは当時のAMラジオ並であったはずだ。現時点ではMMカートリッジにSP針をつけて録音しているが、リマスターの心意気は当時のジュークボックスの音の再現であるので、市販されているCDのマスターテープ音源からのものより躍動感がでることを目指している。
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