投稿日: Oct 31, 2013 1:51:53 AM
中期的には販促からシフトが起こる
Amazonが本の販売だけではなく、出版にも進出するということで戦々恐々としていた業界が、Amazonが大した成果も出していないのをみて安堵しているように思える。しかしAmazonは既存の出版業者とはぶつかるつもりはなく、そういった業界の経験者も入れずに、むしろ出版業界が遣り残したことの落穂ひろいのようなことから始めた。それは在庫切れになった本をオンデマンドで作って提供したことからもわかる。しかし出版社が存在しなくなった本などはオンデマンドもできないからAmazonが版元になるのだと思った。当然これはロングテールな商売で、新刊を出してプロモーションしてまとまった売上を上げようという出版ビジネスとは全然異なる。
でもAmazonにとってロングテールの出版はビジネスの価値があるのだろうか、と大抵の出版業界人は疑問に思うだろう。それは自分たちが放棄した分野だからだ。こういったすれ違いがあることにこそ意味がある。Amazonの戦略は理解されず、従ってAmazonに対抗するような策はたてられず、Amazonは邪魔されることなく我が道を行くことになるからである。その道が何であるのかはAmazonの書籍以外のビジネス部分から十分に想像ができることである。
Amazonはサプライチェーンマネジメントとかカンバンシステムのような物流の最適化で他よりも抜きん出ることで競争力をつけるから投資家は投資する。今のところAmazonの評価は他にはない要素を増やしているから、利益性には目をつぶってもらえているのだと思う。
ECは直販がもっとも利益性が高いはずだが、Amazonが商品間相関とか個人の履歴とかビッグデータ処理的な要素を強化すれば、個別の直販にはないサービス価値が生じる。これはAmazon側のプロモーション力が高まるというだけではなく、使用者にとっても使えば使うほど自分用にカスタマイズされて便利なECプラットフォームになるようなものを目指しているだろう。
何度か書いているがeBayはまさにそのようなビッグデータ処理がコアになったビジネスで、ヤフオクなどとは比べ物にならないほど利用者ごとにパーソナライズされた機能が付け加わっていて、個人の利用数が多いほど「おすすめ」の精度が上がり、有り難味がでるような仕組みである。
私はeBayに比べてAmazonの利用度は少なく、Amazonの「おすすめ」度合いの評価はできないが、同様の機能を果たすものだと思う。そういう機能が実現したときのことを考えると、書店のカスタマイズが必要になり、それは利用者が関心を持ちそうなものをどのように提示するかの問題であるが、仕入れの必要な物流が欠かせない物販では、いくらオススメがあってもモノが納入されなければ売ることはできない。しかしデジタルコンテンツなら紙のリプリントであれ電子メディアであれ品切れはないので、パーソナライズのアルゴリズムと販売が同期して行えるようになる。
おそらくAmazonの狙いは個人のエージェントとか調達代行というのを中期的にビジネスの柱にしたいのだろうと思う。それは世の中のいろいろな販売というものとは別のベクトルで考えることが必要なのだ。生活者がエージェントとか調達代行を意識するとは思わないが、意識しようがしまいが、自分の化身がクラウド上のあちこちに作られて、それが販促メディアの役割をかなり担うようになるのだろう。その進展に従ってプッシュの販促は弱まるはずである。