投稿日: Sep 11, 2014 1:29:28 AM
スマホのサイズが変わることには興味がないし、腕時計は元々しなかったので今後も買うことはない。でもちょっと気になったのは、Appleの発表が「30年前の1984年にSteve Jobsが初代Macintoshを発表したのと同じ場所」という点であった。それでもう一度YouTubeにある当時の映像を見てみた。Macintoshは大喝采を受けていた。しかし振り返って考えると複雑である。Macintoshは商業的には大失敗で、その結果しばらくしてSteve JobsはAppleを追い出されることになるのである。そしてその後に彼が興したNexTも商業的に成功したとはいえない。ずっと後まで考えてもパソコン事業としては特別に大きいことをしたとは言えない。
彼の事業の特徴は、日本人がマイクロエレクトロ技術の延長線上に考えていた情報家電をブチ壊して、インタフェースデザインを先行させてそのところに最新技術を呼び込むという逆のアプローチを成功させたことにある。このことから日本人は目を覚まさなけれならないのだが、日本人のApple好きが日本の産業につながっていないのが残念なところである。
当時のことを思い返すと、技術的な面ではMacintoshの前年にデビューしたLisaの方が衝撃的であった。当時のXerox Starや類似のCADワークステーションの10分の1の値段で登場したので、個人でこのようなコンピュータが持てる時代が来るのだなとワクワクさせられたものである。しかしそれでも個人が買うには高すぎた。金額としては自動車程度だったかと思うが、役に立たなさといったら自動車とは雲泥の比だったのだ。
つまりLisaもMacintoshもデモだけする飾りとしては大喝采なのだが、ほぼ何にも使えなかった。当時CompuGraphicという会社が版下作成のCAD的ソフトをLisaで作ったことがあって、その図形を電算写植にインポートできるものしか実用的なものは見なかったように思う。それはまだPageMakerとかDTPとかAdobe云々よりも前の話である。
当然ながら殆ど用途がないLisaも、その廉価版であるMacintoshも売れなかったが、それらが与えた夢はUNIXやAT互換機上で非常に多くのBtoB的ソフトウェアを生み出させた。それらが再びMacintoshに移植されるようになって、次第にDTPという用途が出てきた。Macintoshが先行していた領域は何もないのである。Quarkの始まりもMacintoshにワープロソフトを移植したところから始まる。レーザライタとPostScriptRIPの登場はドキュメントや印刷のアプリケーションがMacintoshで花開くきっかけとなって、しばらくはDTPでAppleという会社が評価された時期があった。
技術史で考えるとMacintoshという製品発表の最大の功績は、3.5インチフロッピー時代の幕開けになったことのように思う。その頃からSteve Jobsとソニーは付き合い始めたのだろう。今iPhone6にソニーのカメラが部品として採用されていることを考えるとソニーは元々部品屋の面はあるのだなと思う。部品は有用性が明確にないと商売にならないが、Jobsは有用性を無視して先に進もうとしていたのである。今のAppleの経営陣も有用性は保留にして前に進もうとしているのだろうか?なぜMacの原点を引き合いに出したのだろうか?
それで、結局冒頭の「30年前の1984年にSteve Jobsが初代Macintoshを発表したのと同じ場所」というのがどんな意味を持つのかわからなくなってしまった。
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