投稿日: May 18, 2011 12:5:24 AM
メディアビジネスの再構築を考えている方へ
2010年には日本で電子書籍元年騒ぎがあったが、なかなか道は険しいと思われる。ネットや端末という環境は相当充実したものとなって、現に動画がダウンロードされて見られているにもかかわらず、テキストの配信がモタついているのは、技術の問題ではなく、どこかビジネスの組み立てがおかしいと思わざるを得ない。
テレビでも村上龍が…瀬戸内寂長が…という話題が電子書籍がホットであるという文脈で取り上げられているが、インタビューの中で本人たちが「これは本とは違う」といっているにもかかわらず、TV局の方はくどいほど電子書籍を強調している。このお二人はプロデューサのような立ち位置でもあり、iPadなどでこんなことが可能だろうと考えてやってみるのが面白いようだ。たまたま自分のコンテンツとか、以前からの構想がiPadなどにピタッとくるところがあって手がけたように見える。そういうことはテレビでは触れず、紙の書籍から画面の電子書籍へと時代が変わるかのようなトーンになりがちである。
こんな番組が作られてしまうのは、肝心の出版社に取材すべきネタがないからであろう。つまり出版社のニュースリリースを振り返ってみても、わが社はこういうビジョンなりポリシーで電子書籍という新規事業を始めますというベンチャースピリット的なものが感じられない。正直に言えば本が売れないので何かで埋め合わせられないか、程度の動機で絶版の電子化をやりながらビジネスになる時代を待っているだけ、という気がする。本が売れない原因はいろいろあって、流通問題などは一出版社では手が出ないように、いろいろな過去のしがらみがから逃れられる解放区のようにネットの電子書籍を考える人もいる。しかし紙で売れる本がデジタルでも売れるので、売れない原因は紙であることに起因するわけではない。
そこでデジタルに固執するよりも、売れる商品を企画することが優先だ、というように従来のビジネスに目が行ってしまうという堂々巡りがみられる。つまり電子書籍を新たなビジネスとして組み立てることがキチンとできていない。今まで出版業界は版元と流通と小売の分業が進みすぎていたから、ネットで一体化したサービスを考えるのが苦手になっている。そこを白紙から設計しなければ、紙の本と何が違うのかを鮮明にできないだろう。少なくともデジタルの新規事業をする部署は自分で下図のような全体計画を書ける位になっていないと、AmazonやAppleに対抗できないし、そもそもAmazonやAppleが次々に出してくる戦略戦術の理解すらできなくなってしまう。
AmazonはBookOnDemandも含めた幅広い試行の中からKindleをブレイクさせたことを、記事『プリントに未来はあるか』に書いた。過去の日本の出版ビジネスの枠組みから飛び出してやる、という気概がほしい。